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「まあ懐かしいわ。ミコちゃんね、憶えているわよ、もちろん」  星名の母は突然の訪問にもかかわらず、歓迎してくれたのでほっとした。  いや、あらかじめ星名から頼まれていたのだろう、尊の分の料理も用意してくれていたのだから。そして子供の時の好物をちゃんと憶えてくれていたのにも驚いた。海老の天ぷら、炊き込みご飯、茶わん蒸し。全部尊が好きだったものだ。  今は大人になったので多少味覚が変わったけれど、でももちろんそれらは好きなままだったから美味しくいただいた。金持ちであっても家政婦などに任せず自らきちんと料理をして偉いなと思う。  そうだった。当時もスイーツを手作りしてよく尊の家に手土産として持参してくれたのだった。星名の母の作るシフォンケーキがふんわりしてやわらかくてとても好きだった。 「本当に可愛かったわよね。子役とか子供モデルになれそうな顔だちで、男の子だっていうことを忘れてたくらいだもの」 「わたしも憶えてるわ。近所の子たちと一緒にお姫様ごっこをしても、みんな『ミコちゃんがお姫様ね』って言うの。一番可愛い子がお姫様になるんだからって。わたしはいつもミコちゃんに勝てなくて拗ねてたの」  そうだっただろうか。まったく憶えていない。
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