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「そうだね。まあそういう相手がいれば」
え。じゃあ今はいないということ?
彼女はいないのか?
いないのか…そうか…。
「梨紗と違ってあなたはこれといった好みがいまいち掴めないわ。自分でもはっきり言わないし、素敵なお嬢さんを紹介してもいつもあまり関心がなさそうだし」
「あ、そうだ。尊くんに見せたいものがあったんだ。僕の部屋に行こう」
意外にも面倒から回避する要領の良さがある。小言も笑顔で受け入れそうなイメージがあったが、星名は追及する母親に微笑みを返すと、急に思い出したようにさっと立ち上がって尊を誘った。
この調子では毎日のように母親からせっつかれているパターンかもしれない。早く結婚相手を見つけろと。
それなら尊と会っている場合ではないのではないか。こうして家族ぐるみで団らんすべきは結婚相手候補だろう。
そう思いつつも彼の後をついて二階までの螺旋階段を昇る。そうだ、この広い階段。真鍮の手すり。そして上がり切ったところを右に曲がると星名の部屋がある。全部憶えている。懐かしい。
普通は実家での自室といえば一人に与えられる分は四畳半とか六畳くらいだろうが、ここは広い。二十畳近くありそうだ。都心の高級住宅街の豪邸ともなればこの層では一般的なのだろうか。当時は気にもしなかったものが、今となっては自分との生活レベルの違いを実感させる材料にしかなりえず、気おくれしてしまう。
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