失恋日和

2/3
前へ
/3ページ
次へ
さっきまでの晴天が嘘のようだ。 一天俄(いってんにわ)かに掻き曇り、来るなと思ったらザザァッと雨が降ってきた。 「じゃ、そういうことで!」 そう言って逃げるように走り去る浩平の後ろ姿を見送る。 ”そういうことで”って何なのよ!? 五年も付き合ってきた恋人への別れの言葉にしては、呆気なさ過ぎる。 冗談じゃないわよ。戻ってきて、ちゃんと説明しなさいよ。 先月の私の誕生日にプロポーズしてくれたわよね? 来週、うちの実家に挨拶に行くことになっていたわよね? それなのに『会社の後輩が妊娠したんで、あっちと結婚することにした』って何? 言いたいことはたくさんあったのに、急に降ってきた雨が口に流れ込んできて何も言えなかった。 「酷い話だね、あっちとかこっちとか。要は二股掛けてたってことでしょ?」 ギョッとして隣を見ると、制服を着た男の子が神妙な面持ちで私を見ていた。その胸元のエンブレムは偏差値の高さで有名な私立高校のものだ。 駅ビルの庇の下では、少しずつ間隔を開けて人々が雨宿りをしている。 そもそも浩平がこんなところで別れ話を切り出すのがおかしい。隣に立つこの男の子だって、聞きたくもないのに耳に入って来てしまったのだろう。   「でも、お姉さんはラッキーな方だと思うよ。あんな男と別れられたんだから。もっと悲惨なのは”あっち”の妊婦さん。二股掛けられてたことも知らないで、結婚することになっちゃって。」 そうだねって相槌を打とうとしたら、スッとハンカチを差し出された。 「え?」 「涙。拭きなよ。」 「あ……」 雨だとばかり思っていた頬を伝う水滴は、両目から溢れて止まらない涙だった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

130人が本棚に入れています
本棚に追加