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「いい。自分の……で」
自分のハンカチで拭くからいいと言おうとしたのに、声が上手く出ない。涙は頬を流れるだけじゃなく、鼻の奥から喉にも落ちて行って喉を詰まらせた。
バッグからハンカチを取り出そうとしたら、
「いいから!」
と強引に彼のハンカチで目を擦られてしまった。
そんな風にしたらマスカラもアイライナーも取れちゃうよ。高校生だからわからないんだろうけど。
あーあ、トイレで直さなきゃって思ったけど、何だか嬉しかった。優しくされて。
「あ……」
彼も自分の失敗に気付いたようで、困った顔で俯いた。きっと私の目の周りは今、黒く滲んでいることだろう。
「ありがとう。おかげで涙止まったよ。顔洗ってメイク直さなきゃね。ハンカチは……新しいの買って。」
お財布からお金を出そうとしたら、
「いいよ! 俺が勝手にしたことなんだから。金なんて要らない。」
と怒ったように言われてしまった。
「でも、それじゃ」
「じゃあ、ハンカチの代わりにあそこでコーヒー奢ってよ。」
彼が指差したのは、バスロータリーの向こうに見えるカフェだった。
「え……あそこまで行くの?」
二人とも傘を持っていないのに? こんな土砂降りの中?
「そ。ほら、走るよ!」
「ええっ!? ちょっと待って!」
私の手を掴むと彼はいきなり走り出した。
でも、たぶん私の速度に合わせて走ってくれている。
容赦なく降りしきる雨が私の涙を流してくれる。ついでに崩れたアイメイクも。
失恋するなら、こんな雨の日が良い。
カフェに着く頃には、きっと私の心は晴れているだろう。
私の手を引いて楽しそうに走る彼のおかげで。
END
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