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「おや、初めて見る顔ですね。わざわざこんな所まで来て頂き、ありがとうございます。」
笑顔をこちらに向けて来る。
とても流暢な英語だ。声だけなら東洋人が話しているなんて思わないだろう。
「私の名前は犬飼 真(いぬかい まこと)と言います。日本人で、ここの神父をしています。貴方のお名前をお聞きしても??」
ボリス「…ボリス・ストライド。ただの記者さ。にしても何故、異国の地で神父を?」
神父「静かな所が好きです。幸い言語には問題がありませんでした。どうせなら見知らぬ地でと思いまして。」
ボリス「成る程。……あぁ、失礼致しました。許可をいただく前に質問をしてしまいました。
実は神父さんの評判が噂になっていまして…ご迷惑でなければ是非とも取材をさせていただきたいのですが、如何でしょうか?」
神父「それが貴方の望みであるならば。快くその申し出、受け入れさせて頂きます。」
ボリス「ありがとうございます、神父様。……それにしても、かなり若く見えますね。10代後半にも見えますよ?」
神父「ありがとうございます。よく初めて会う方に若いと言われるんです。これでもそれなりに歳はいってる方なんですけどね。」
神父は少し複雑な表情で笑う。
ボリス「羨ましい限りですなぁ。私は老けて見えますからなぁ。……さて、早速本題に入っても大丈夫でしょうか?」
神父「えぇ、構いませんよ。」
ボリス「では……神父さんは全ての願いを叶えてくれると噂されています。それは本当でしょうか?」
神父「えぇ…私は少しでも皆様の力になりたいのです。私にとってそれが全てなのですから。」
教会のステンドグラスから伸びる光が彼を祝福するかのように降り注ぐ。その笑顔は神が乗り移ったかのような感覚を感じさせる。
不気味さのあまり、少し冷や汗が出る。
ボリス「そ…そうなのですか。……例えばなんですが、私がお金が欲しいと言ったらどうしますか?」
口が渇いて、少しどもってしまった。
神父「えぇ、差し上げますよ。」
即答かよ。冗談だよな…?
ボリス「……も、もし…300万£(ポンド)欲しいと言ったら?」
唾を呑み込み話す。
変な汗が出る。
神父「何やら事情がお有りなご様子。只今お持ちするので少々お待ち下さい。」
にこやかな笑顔で奥の左にある扉へと行く。
あまりの事に頭がついて行けず、しばらく茫然としていた。
ボリス「…………マジか…」
今日会ったばっかだぞ?友人や家族じゃないんだぞ??しかも大金!
……日本の金にすると確か…1.5、6倍くらいか……約500万…500万!!??
簡単に出せる金額じゃねぇよ!?
何者なんだよ、あの神父……
落ち着かず、ウロウロして待っていると扉を開ける音がした。神父がボストンバックを持っている。
神父「お待たせしました。きっちり300万£入っています。」
ボリスの前まで来て、カバンを下に置き、しゃがんでチャックを開ける。
中には20£紙幣で一杯になっている。
ボリス「……夢でも見ているのか…??…これは本物なのか?」
神父「これは夢でもありませんし、本物ですよ。」
ボリス「……すまな…すみませんが、用事が出来ました。日を改めて2、3日後に取材に伺っても?」
神父「構いませんよ。その日を楽しみにお待ちしております。」
ボリス「失礼します。」
足早に教会を後にする。
「貴方に幸運があらんことを。」と後ろから聞こえた。
外に出て、急いで車のエンジンをかける。手が震えていた為、車の鍵を差し込むのに少し手間取った。
アクセルをいつもより強めに踏む。
幸運だぁ??正に今受けてるのを感じるよ!!
最高にツイてる!
これで借金チャラどころか4万£が自分の懐に入る。あの神父は噂通りイかれてるが、イカしてるぜ。頭の中どうなっているだろうな。まぁ、言うだけ言ってみて良かったわ。本当にツイてる。
嬉々とした喜びの声を上げなら、帰路を急ぐ。スピードの出し過ぎや蛇行運転によりすれ違う車にクラクションを鳴らせながら、今まで生きてきた人生の中で最大級の感謝を神父に捧げる。
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