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「トランスファー」
オレはフルプレートを身に纏った。
そして、砦の手前で止めた荷馬車から降り、ゆっくりと城門へと向かって歩いていった。
そして、そのオレの後ろを、防御魔法を展開した楓香とアリシアの2人が付いてくる。
━カンカンカンカーン━
オレたちを警戒すべき対象であると判断したのであろう。
砦からは非常事態を知らせるかのように鐘の音が鳴り響く。
城壁の上からは、多数の弓を構えた兵士達がオレたちに狙いを定めていた。
「ちょっと話あんねんけど、ええかなぁーー!!」
砦の中にも聞こえるようにオレは大声で叫んでみた。
こういった軍事施設に直面してしまったため、戦闘は避けられない、と思ってはいたが、もし可能であるならば、一度責任者と話がしてみたい、ともオレは考えていた。
━ギィィィィィ━
問答無用で攻撃を仕掛けてくるのかと思っていたが、オレの予想に反し、しばらくの間を置いてから城門が開かれた。
そこから馬に跨った一人の騎士らしき人物がこちらへと向かってきた。
そして、オレたちの前まで来ると、馬から降りて兜を外す。
これもまた予想外。
その騎士はなんと金髪ロングの美女であった。
「やはり…。
お久しぶりです、アリシア様」
「本当、久しぶりですね、シルヴィア」
え?何?知り合い?
あ、そうか。
ドワーフとエルフの間に交流があるんやったら、エルフがドワーフの町に行く時って、絶対ココ通らなアカンってことよな…。
なるほど、それで面識があるっちゅうわけか…。
「今回はどういったご用件で?」
「いつも通りですよ。
ドワーフの町に行きたいので、ここを通して頂きたいだけです」
シルヴィアは何かを考えていたのだろう。
少し間を置いてから口を開く。
「その前に、そこの2人が何者なのか?を聞かせてもらえますか?
黒髪黒目の女に黒の剣士…村を襲った殺人犯と特徴が一致します。
加えて、アリシア様が一緒だということは、精鋭部隊を退けたとされる黒の剣士だとも考えられるのですが。
ただ、こちらに関しては飽くまでも噂の域を出ませんが」
まぁ…確かにその通りやねんけどな。
村の出来事って、王国やと猟奇殺人扱いになってるみたいやし…。
それに、ヘルムートの件は王国内やと、部下に暗殺されたってことになってるみたいやけど、実際にガウィンディに攻めてきた精鋭部隊って、ほとんどが散り散りになってどっかに逃げてもうたもんな。
やとしたら、この辺にもその情報が行き渡っててもおかしくないってことか。
「あなたの考えている通りだと思います。
そして、この方々は本物の魔人です」
「魔人…と言われましても…。
確かにそうであれば、色々と辻褄が合ってくるような気もするのですが…。
ただ、私は軍で魔人についての特徴などは教わりましたが、実物や実際にその力を見たことがないので、にわかには信じ難い、というのが本音のところです」
なるほど…。
人間が魔人をなめてかかってる理由はそういうトコやったんやな。
「楓香…」
「うん…」
オレは妹に合図を送る。
すると、彼女はそれを察してくれたようだ。
手に持っていた魔杖の先端を近くの森の方へと向けて集中する。
そして、魔法が放たれた。
━ドゴォォォォオン!!!━
爆音と共に、森の大半が一瞬にして消え去る。
「結構、力を抑えたつもりだったんだけど、ちょっと威力が大きかったみたい」
普通にそれをやってのけ、あっけらかんとしている楓香とは対照的に、腰を抜かして唖然としているシルヴィアがそこにいた。
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