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「あ!
シルヴィア様だ!」
外から少女の声が聞こえたかと思うと、荷馬車の周りには人が集ってきた。
集落に興味を持ったオレは、その様子を荷馬車後方から全体を覆っている布の隙間から見ている。
民を思う彼女からも感じ取ることはできるが、想像していた以上に慕われているようだ。
歓声の中、大きく手を振る者もいれば、感謝や尊敬の意を示してか?彼女に向かって深く頭を下げる人間もいた。
集落に関して言えば、ドワーフの町へと続く大きな道を、左右から挟むようにして建物が並んでいて、その数は城壁から遠ざかるにつれて減っていった。
ガウィンディやリベラのように立派なものではないが、それなりに整備され、ちょっとした町のようになっている。
ん?
一瞬、気になるものがオレの視界に入ったが、気のせいだろうと思いスルーする。
「陛下、もう大丈夫です」
暫く荷馬車を走らせると、シルヴィアが荷台の中にいたオレたちに声をかける。
どうやら、集落は抜けたようだ。
身を潜めていたオレたちは、やっと気兼ねなく声を出したり、外を見ることができるようになった。
前方に目をやると、道は森の中へと続いており、その先には大きな山が聳(そび)え立っている。
ナウード砦から1時間程度で到着すると言っていたことを考えると、ドワーフの町はどうやらその山の麓にあるようだ。
「…先生…」
「大丈夫ですよ、エミ」
突然、不安そうな声でローズに何かを伝えようとするエミ。
彼女が何を感じているのか、を知っているような口調でローズはエミに応える。
「トランスフォーム」
エミとローズが師弟関係になって以降、当然の事ではあるが彼女たちが会話をする機会が増えた。
それ自体には全く問題は無いのだが、オレがローズを鎧として装着している際には妙な違和感を感じる。
そういった時は、状況にもよるがオレはローズを人型にする。
それが段々と習慣になりつつあった。
「で、何かあったんか?」
「はい。
エミは随分と前から気付いていたようですが、ここに来て私も気付くことができました。
つい先程通った道の脇には獣道のような細い道が北へと続いたのですが、その先に比較的な大きな魂の存在を確認することができました」
「大きい魂ってことは、あれか。
なんかヤバい奴がおる感じ?」
「ヤバいかどうか?は分かりかねますが、エミの直感を信じるのであれば、あまり良い存在ではないでしょう。
ただ、ご主人様の敵と成り得るような力は無いように思えますし、今はやり過ごしても問題はないかと…」
「まぁ、それやったら、まずはドワーフに会いに行こっか。
ほんで、帰りにでもちょっと様子見に行くことにするわ」
集落で一瞬だけ目にしたものや、森の中でのこの一件。
少し気になる事はあったが、とりあえずは当初の目的であるドワーフとの交渉を優先することにした。
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