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「………こいつは驚いたな…」
一瞬にしてフルプレートを身に纏った事に対して、彼は理解が追いつかないのか?苦笑いをしながらそう呟いた。
「なぁ、別に勝負してやってもええんやけど、その前に色々聞きたいことあんねん」
「何が聞きたいんだ?
勝負してくれるってんなら、答えてやるよ。
別に急いじゃいねぇしな」
その答えはとても意外であった。
どうやら彼の目的は、純粋にオレと勝負をすることらしい。
現状それが約束されている状況下なので、彼はオレの質問に答えてくれたのだろう。
まずは初見でオレが魔人であると見抜いた理由である。
黒髪・黒目という身体的特徴があるので、普通に考えれば一目瞭然なのだが、この島に住む人間の大半が本物の魔人を見たことがないのだ。
王国における軍の重要ポスト…4将軍の一人であるシルヴィアでさえ、最初はその存在を疑った。
しかも、軍関係者以外の一般人だと悪魔と魔人の区別さえついていない。
では、なぜ彼はオレが魔人であると理解したのか?
その答えは至ってシンプルかつ意外なものであった。
結論から述べると、彼はこの島で魔人と暮らしていた時期があったからだ。
20年程前、手負いの魔人がこの島に流れ着いたという。
それを最初に発見したのが彼であった。
黒髪、黒目の人間の姿をしている者は悪魔が化けた姿である、と昔からレイリア島では語り継がれてきている。
だが、まだ幼かった彼にはそれ理解ができなかった。
その魔人は美しい女性の姿をしていたそうで、彼は一目惚れをしたという。
そのため、彼女の事は村の人間達には一切知らせなかった。
村から離れた洞窟に彼女を匿い、食料などを運んで傷が癒えるまで世話をしたという。
通常、大陸からこの島に来る場合、北の港町から上陸する以外には考えられない。
そもそも、大陸にある人間の国が魔人の手によって落ちない限り、レイリア島に魔人が来ること自体がないだろう。
だが、こういった海から流れ着くケースがあるという事を体験している彼にとっては、この島に魔人がいても不思議ではないと考えていた。
次に、この村に彼以外の人間がいない理由である。
それはリベラの消滅に端を発する。
整備された街道沿いにあるこの漁村はリベラに最も近い村であり、村人達は捕れた魚を売るため首都へと向かう。
魚は鮮度が大事なので、毎日のようにリベラとこの村の間の街道には往来があったそうだ。
何が言いたいのかというと、要は、遠くからではあるがリベラが消滅する瞬間を目撃した人間がいるという事である。
地震などの自然災害でもなければ、隕石が落ちてきたわけでもない。
かといって、人間達が知っている爆発物や魔法の可能性も考えたが、その威力は彼らの常識の範疇を超えていた。
原因不明の大爆発、次はリベラに近いこの村で起きるのではないか?という噂が広まり人々の間に混乱が生じる。
国としての機能を完全に失った上、管轄内の混乱を治めるべき南の将軍も存在しない。
その事態を知った東の将軍は、リベラ周辺の村や町の人間を自分が管轄する領内に受け入れたらしい。
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