20 帝国誕生

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「馬ってめっちゃ速いな!」 シエルスから一番近くにある森へ向かってオレは馬を走らせていた。 今までは馬車での移動であったが、今はローズを装備したオレ独りであるため騎馬隊が使用している馬を拝借している。 ちゅーか、やっと馬術のスキルが役立ったような気がするわ。 そして、森の前まで来ると、ローズが馬を止めるよう促してきた。 「ご主人様、馬は置いていった方がよろしいかと。 森の中は足場も悪い上、狭くなっております。 さらに申し上げるとするならば、馬上での戦闘は未経験でございますので」 「確かにそうやな。 体力もあるし、さっき素早さも大幅に強化したから大丈夫か。 ローズの言う通りにするわ」 とりあえずは歩いて森の中を奥へと進んでいく。 案の定、大量のゴブリン達が襲ってきたが、今のオレにとっては雑魚でしかない。 「えっと…あと何ポイントいるん?」 「予定では1日当たり428ポイントずつの獲得でございますので、あと307ポイントでございます」 「マジか…。 こんだけ倒しても、まだそんなあるん? てかさ、1匹1ポイントとか…効率悪くね?」 「確かにご主人様の仰る通り効率が悪過ぎますね。 夜中であれば、もう少し高位のモンスターが現れると考えていたのですが…。 今日は引き上げましょう。 この課題については魔神様に相談をしてみます」 「なんか、悪いな」 「いえ、そんな事はございません。 全ては私の目論見が甘かったせいでございます」 モンスターは夜行性ということもあって、夜であれば活発になり、群がって来るのは計算通りだったのだが、集団で襲ってくるといっても、その数は20匹程度。 倒すことに関しては容易なのだが、遭遇するのに苦労をしていた。 そして、ローズが言っていたように、いくら探しても現れるのはゴブリンばかりだ。 ある意味、この島が平和であると言われている理由もわかった。 「ご主人様…予定していた時間より早く帰ることになりましたね…」 森の入口に繋いでいた馬に乗ろうとした際にローズが話しかけてきた。 てか、この声のトーンとか喋り方って、ローズのやつ、完全に乙女モードに入ってるやん。 仕事のオンとオフすげぇなぁ…。 「せやな。 なんで?どうしたん?」 「意地悪な事を言わないで下さい。 今はご主人様の考えていることがわかるんですよ…。 だから…ヒト型にして欲しいです…」 「…トランスフォーム」 「で…?」 「…いえ…そのせっかくなので、海沿いをゆっくりと帰りませんか?」 オレはローズを前方に乗せ、彼女を後ろから包み込むように馬を海沿いに走らせる。 相変わらず晴天に恵まれたこの島で見る空には、たくさんの星が綺麗に輝いていた。 そして、海からは波の音だけが聞こえる。 「ご主人様、少し寄って行きませんか?」 ローズが砂浜に行きたいというので、オレたちは馬を止めた。 彼女は裸足になり、砂浜に寄せる波に足をさらして、子供のようにそれを楽しんでいる。 月明かりの下で波と戯れる彼女が、なぜかとても幻想的に見えた。 いつもクールなローズにそんな一面があったとはなぁ…。 そういえば、前に海に行った時、ずっとオレに膝枕してくれてたけど、ホンマは遊びたかったんか? 「ありがとうございます、ご主人様。 最後に、もう1つだけワガママを聞いてもらってもよろしいですか?」 「ん? いっつもオレばっかりがワガママ言ってるしなぁ。 まぁ、オレにできることやったら何でもええよ」 「ありがとうございます。 では」 それは一瞬の出来事であった。 ふと気付くと、すぐ目の前にはローズの顔があり、オレの口は彼女の唇で塞がれていた。 「…えっと…」 「…ご主人様。 私は楓香様の次でも、その次でも結構です。 ですが、私がご主人様を愛しているということは知っておいて下さい。 そして、何が起こったとしても、決して裏切ることはないということも…」 魔鎧とはいえ、ローズはとても素晴らしい女性であるとは思う。 だが、楓香の事も考えると、その場でどう答えれば良いのか?がわからなかった。
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