20 帝国誕生

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異世界生活20日目の朝。 オレたちはシエルスの町を観光…もとい視察を行っていた。 町は多くの人間で溢れかえっている。 人口だけで考えれば首都であったリベラよりも少数なのかもしれないが、今のシエルスには軍人がほとんどいない。 そういった理由もあってか?町は活気づいているように思える。 現状、島の流通は麻痺しているといってもよい状況なのだが、大陸との玄関口であるこの町は物資が豊富である。 そういった観点で考えると活気があるのも納得できる。 「うわぁ~、お魚いっぱ~い」 大量に売られている魚を見たエミが声にする。 港の近くには市場があり、オレたちは今そこにいる。 そこでは新鮮な魚介類がたくさん売られていたのだ。 なるほど…。 牛とか豚みたいな畜産物が流通してなくても、シエルスには魚があるから食糧にはそこまで困ってへんかってんな。 それに、大陸から仕入れてる小麦粉とかもあるやろうしな。 エミの声にラルフが反応する。 「お、ホントだなぁ。 へぇ~、どれどれ。 お、見たことねぇ魚とかもいるじぇねぇか」 ラルフの出身は島の南部に位置する漁村である。 そんな彼が見たことがない魚があるということは、島の北と南では海流などによって何かしらの違いがあるのかもしれない。 そもそも、この町でこれほどの魚が売られている事自体をオレは想定していなかった。 完全に貿易港としての役割に特化していると考えていたからだ。 市場を抜け、港まで足を運ぶと、そこには大きな船が3隻停泊していた。 「おっきぃねぇ~」 小さな体で巨大な船を見上げるエミ。 あまりの大きさに驚いているのか、彼女の口は開きっぱなしだ。 だが、そうなる理由もわからなくはない。 確かに大きな船である。 オレからしても想像以上の大きさだったので、驚くのも無理はないだろう。 大陸までは船で片道1ヶ月。 次の出港予定は半月後となっているらしい。 ローズが立てていた予定よりも少し遅い。 つまり、オレが帝国を樹立したことが大陸に知れ渡るまでには、それくらいの猶予があるということを確認する。 町を一通り見たオレたちは昼食をとることにした。 オレたちが入ったのは、お世辞にも綺麗で立派とは言えないような店である。 ましてや普通に考えれば皇帝であるオレが入るような店ではない。 だが、その店に入ったのには理由があった。 「うおぉ! 久々の米やぁ!!!」 この店は漁師が空いた時間を使って営んでいるらしい。 少し値は張るものの、さすがは大陸との玄関口ということだけあって、ここには米があった。 そればかりか、醤油まであったのだ。 もちろん、注文したのは海鮮丼である。 オレと楓香以外は米を食べたことがないらしいのだが、せっかくなので、ということで皆で食すことにした。 「存在するのは知っていましたが、これほどまでに美味しいものだとは思ってもおりませんでした」 どうやら米はローズから合格点をもらえたようだ。 てか、昨日あんな出来事あったのに、ホンマ平常運転やなぁ…。 ひょっとして、アレって夢やったんか?って思ってまうわ。 久々の米に楓香も満面の笑みだ。 エミは基本的に何でも美味しそうに食べるから見ていて気持ちが良い。 一応、基本的にと言ったのは、ドワーフの食事だけは受け付けないからである。 また、アリシアとラルフに関しては、最初は見たことも聞いた事もない食材を前にして食べることを躊躇していたが、完食していたことから考えると高評価を得たようである。 「ご満足して頂けましたか?」 「もちろん! ありがとう、ローズ!」 「いいえ、勿体無いお言葉。 私にとって、ご主人様の喜びこそが最大の褒美でございます」 彼女は港の管理局に立ち寄った際に、船の便やどういったものが輸入、輸出されているのか?を調べていたところ、米や醤油が輸入されていることを知り、この店を人間から聞いていたのだ。 以前にローズと、そういった食に関しての話をしておいて良かったと感じる。 「さて、美味い飯も食ったことやし、そろそろ行くとするか」 オレたちが次に目指すのはガウィンディである。
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