15 視察

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15 視察

「この先でございます」 ナウード砦へと向かう途中の森の中、ローズが荷馬車を止めた。 島を統一する前に懸念材料は払拭しておく。 そのための寄り道である。 オレたちは獣道の先にある怪しい気配の元へと向かう。 その目的地は、以前からエミが嫌な感じがする、と言っていた場所に間違いないだろう。 また、ローズが魂を検知できるという事は、何かしらの霊長類が存在するはずである。 しばらく森の中を歩いて行くと、少し開けた場所に古びた小屋が見えてきた。 「プリンセスちゃん、念の為に防御魔法を展開しなさい」 カーマが楓香にそう告げる。 余りにも唐突だったため、困惑した様子の楓香。 だが、魔杖の言う通りに彼女は自身とエミに防御魔法をかけた。 前から思ってたけど、魔道具って殺気感じることができるみたいやな。 思い返してみたら、最初のクマん時からずっとそうやもんな。 てか、オレの殺気で強くなるみたいな事も言ってたし。 オレは楓香たちをその場に残し、警戒しながらゆっくりと小屋へ近づく。 もちろん、こうなるであろう事は予想していたので、馬車を降りる段階でローズを装備している。 オレからある程度の距離を置いた場所で待機している楓香は、その場からいつでもオレを援護できるようカーマを構えて様子を見ていた。 ━ギィィィィ━ オレたちの気配を察知したのか?小屋のドアがゆっくりと開かれる。 そこから出てきたのは1人の人間の老人であった。 …が、その後、彼に続いて出てきたのは動く人間らしき骨が2体。 「うお! あれってスケルトンやんな?!」 「恐れながら…。 似てはおりますが、厳密には異なります。 あれらの骨には魂が宿っておりません。 おそらくは、あの人間に操られているいわゆる傀儡(くぐつ)でございます」 「ふ~ん、そうなんやぁ…。 てことは、あの爺さんっていわゆるネクロマンサー的な?」 「あれも正確にはネクロマンサーではございません。 強いて言うのであれば「ネクロマンサーもどき」といったところでしょうか。 おそらく人間ごときが何かしら方法で知識を入手し、彼を真似たのでしょう」 いやいや…十分凄くね? 骨2体も動かせんのに「もどき」なん? てことは…本物のネクロマンサーってパネくね? などと思いながらも、危機感があまりない自分がそこにいる。 この異世界に来る前の自分であれば、人骨が実際に動いている姿を目の当たりにして、平然としていられるわけがないだろう。 だが、なぜか自分に備わった特殊な能力により、獲得したポイントを度胸の能力補正に回してきたこともそうだし、さすがに異世界という世界観そのものに対しての慣れというものもあるのだろう。 「火の矢!」 え?なになに?! 背後から突然、妹の大きな声がした。 「ぎゃぁああああ~!!!」 直後、目の前にいた老人の断末魔の叫びが聞こえてくる。 そして、火だるまとなったネクロマンサーもどきと、スケルトンもどきは燃え尽きて灰となった。 「なぁ、楓香…。 あの「火の矢」って叫んだんて、ひょっとして魔法の名前?」 「うん。 トロールを倒した時に、アリシアとカーマちゃんたちと話をしてたんだけど、発動させようとしている魔法に、それぞれ名前を付けた方がイメージしやすいって言われたから」 う~ん、確かに言う通りやな。 魔法にもちゃんとした固有名詞があったら、分類できるし、効果とか威力とかイメージしやすいもんな。 てかさ、何で魔法の名前日本語なん? なんか、せめて英語で「ファイヤーアロー」とか…。 …うん…それも、まぁまぁダサいというか、ベタやな…。 それよりも、あの老人…一言も喋ってへんのに死んでしまったな…。 「あっ、誰か来たぁ」みたいな感じでドア開けたら瞬殺されるとか、まぁまぁ可哀相やな…。 ま、でも人間やし、しかもオレらに対して殺意もあったみたいやから、えっか。 にしても、エミが何か嫌な感じって言ってたから何事かと思ってたけど全然やったな。 何を感じ取ってたんやろ?
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