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16 双剣士
時刻は18時過ぎ、空が薄暗くなってきた頃、オレたちは村に着いた。
海沿いの集落という事もあり、ここは漁村なのであろう。
砂浜に目をやると、漁をするためであろう船がいくつか泊まっている。
ちなみにだが、船を数える単位は色々ある。
隻・艘・艇・艦などである。
基本的には、そのものの大きさや用途などで単位が変わるそうなのだが、厳密な使い分けというものはないらしい。
また、「船」は大型で動力がついたもの、「舟」は小型で手漕きのものとして区別するようだ。
ただでさえ複雑なのだが、それに加えココは異世界であること。
他にどのような種類や規模の船があるのかを知らない。
また、動力に何を使用しているのか?も解らない為、区別が困難である。
例えば、自分で魔法を発動して動かすとするなら、それは手漕きにはならないだろうし、かといって、船自体に元々動力装置が備わっているわけでもない。
今後は「船」で統一し、単位は「隻」として数えていく。
荷馬車で村の中を進んでいるのだが、何やら様子がおかしい。
南にあるこの村では、西の将軍であるシルヴィアの管轄外であるため、無償の物資が提供されていない。
そのため、先程までの村や町とは異なり、住民たちが歓迎モードではない状態だという事は簡単に理解できる。
むしろ、オレたちがここを訪れる際には、魔人もしくは悪魔だという認識のもと、彼らの敵として扱われるであろう事を想定していた。
だが、もしそうであるのなら、現状は不可解な状態だ。
今までに訪れた人間の村や砦のように警鐘の音も聞こえず、普通に村の中を進む事ができているからだ。
しかも人っ子一人見かけていない。
「おい、止まってくれ!」
村の中心であろう場所まで荷馬車を進めると、一人の男が行く手をさえぎるように立っていた。
オレたちは男の言う通りにする。
ローズたち魔道具に反応がないので、どうやら今のところオレたちに対しての殺意はないようである。
「アンタら、魔人だな?」
「ゴミの分際で、気安くご主人様に話しかけるな!」
口調がキツくなったローズをオレは軽くなだめる。
「そうやけど、何?」
「って事は、アンタ、黒の剣士ってどこにいるか知ってるか?
いや…、鎧は付けてないが、もしかしてアンタが噂の黒の剣士かい?」
首都リベラに近い場所ほど、黒髪・黒目の女と、黒の剣士の2人組が殺人犯であるという事が、軍関係者だけではなく一般人の中でも有名な話だとシルヴィアから聞いている。
楓香たちは荷台の中にいるので、おそらく彼はローズの事を妹だと勘違いしているのだろう。
空が薄暗いことも影響してか?彼女の深い紫の瞳を認識できていないようである。
「もし、そうやって言ったら?」
「へヘッ…。
なら、オレと勝負して欲しい」
オレの言葉に男は反応する。
ニヤッと笑みを浮かべて剣を構える。
「へぇ~、二刀流かぁ…」
彼が構えた剣は2本。
つまり、双剣使いなのであろう。
「トランスファー」
相手がやる気満々なので、オレは仕方なくローズを装備した。
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