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18 合流
「これはこれは、フーガ殿。
早いお目覚めですな」
そうオレに話しかけてきたのは小柄だが威圧感のある男。
ドワーフの町フィンクローフの長であるヴォルテルだ。
異世界16日目の朝、オレはナウード砦の屋上で彼と出くわした。
「せやねん。
昨日ってほぼ一日移動やったから、その間ほとんど寝とったんやけど、なんか変に体は疲れてたみたいで昨日の夜は早よ寝てもうてん。
だから、こんな朝早くに目覚めてもうたってわけ。
てか、自分こそ、こんな朝早ように、こんなトコで何してんの?」
「いや…実はですな…」
どうやらヴォルテルは北の港町を警戒しているらしい。
もう少し正確に言えば、北の将軍バルタザール・ファーレンハイトだ。
シルヴィアは余っていた物資を無償で提供するため、自分の部下たちを砦周辺の町や村に派兵させていたのだが、その際、北の村を回っていた彼女の兵たちが、港町に関する不穏な噂を耳にしたという。
それが昨日までこの砦を任せていたヴォルテルの耳に入ってきたのだ。
その内容はバルタザールが謀反を画策しているらしい、というものであった。
いや…、王や王族、宰相や首都さえも消滅してしまっているので、謀反という表現は正しくないのかもしれない…。
だが、いずれにしても、穏やかな話ではなさそうだ。
ドワーフであるヴォルテルに、人間の砦であるナウードを任せたのは万が一の事を想定してのことであった。
シルヴィアはアリシアの護衛として付き添わせているので不在。
そして、知っての通り、オレたちは南部と東部を視察していた。
そのため、仮にココが攻め込まれた場合、もし彼がいなければ、シルヴィアの部下である砦の兵達は烏合の衆となり、苦戦を強いられることになると判断したためだ。
「確かに野心を持つ者にとって今は絶好の機会…。
今の我々と同じように新たな国を作ろうとしているのかもしれません…」
オレの傍に控えていたローズが呟く。
てか、オレの場合、そんな野心全然ないねんけどな…。
成り行きでこうなってるだけで…。
それよりも、さっきからめっちゃ気になるわぁ…。
もっ凄いイカつい筋肉ゴリゴリで傷だらけのおっさんが、踏み台に乗って外見てるとか…。
めっちゃシュール…。
「なぁ、ヴォルテル。
やっぱ、人間サイズの建物やったら暮らしにくいか?」
「そうですな。
大は小を兼ねると言いますが、実際に生活してみると、過ぎたるは猶及ばざるが如しと言った感じですかな」
う~ん…、やっぱり、ドワーフはドワーフサイズじゃないとアカンてことよな。
とりあえず、ナウードから人間撤退させて、ドワーフらが住みやすいように勝手に改造させてみるか…。
「それはそうと、フーガ殿。
せっかくですし、私と一緒に朝食などは如何ですかな?」
「あ…うん。
オレらは後でいいわ。
楓香たち、まだ部屋で寝てるから」
「そうですか。
では、また機会があれば。
私は今から娘を誘って朝食にしようと思います。
…では、失礼」
オレが戻ってきたことで安心したのだろうか?
彼は外を警戒することをやめ、屋上から去って行った。
そしてオレも安堵する。
朝からドワーフの激マズ料理は無理!
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