第20話 スラム街の雨 中編

2/5
53人が本棚に入れています
本棚に追加
/176ページ
ソウが住人たちの視線(しせん)の先を見ると、簡易ステージが(もう)けられていた。 簡易ステージには屋根があり、それら支えている脚部やフレームは、軽くて丈夫なアルミ製。 ステージの上には、強烈なライトと大きなスピーカ、そしてバッテリーが設置されていた。 剥き出しに見えるが、おそらくすべての機器に水、粉じんに強い野外用の防雨(ぼうう)型が使われていると思われる。 天候に左右されることのない完璧な野外ステージだ。 しばらくすると、ステージにスーツ姿の屈強なネパール人を両脇に連れた、清涼感のあるミディアムブロンドの女性が現れる。 高いヒールに白衣姿、クロエ・グラッドストーンだ。 クロエはマイクを使って、スピーカから声を出す。 「皆さん、今日はこのような雨の中を集まってくれて感謝します」 どこで覚えたのか、流暢(りゅうちょう)なヒンディー語を使っている。 その様子はマイクスタンドの前、大袈裟にゆっくりと手を動かしながら、自信満々の笑みを浮かべていた。 クロエは、このスラムを安全で、誰でも安心できる街に変えたいと話し出す。 犯罪を無くし、誰もが富を得て貧困がない生活を、と続けた。 住民の1人が、そんなことできるのか? 大きな声を出すと、次々とそれに続いた。 その質問に、クロエは笑顔をで答える。     
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!