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ソウは死んだダビシェが、レットの店『ヘブン・オア・ラスベガス』で話していたことを思い出す――。
「ナスと王様の話は知っているか?」
ダビシェがインドビール『ゴットファザー』をコップに注がずにラッパ飲みをし、煙草をくわえて火をつける。
ソウが知らないことを伝えると、店の店主であるレットが黙ったまま口角を上げている。
ダビシェは、紫煙をゆっくりと吐き出して続ける。
「王様はな、ナスをダメな野菜だ。と言い、大臣は全面的に賛成したんだ。それから大臣があまりにもナスを貶すので、王は自分の言っていることを、さらに疑わなくなった。数日後に王の主治医がナスは体にとても良い、と言ったので、王がナスを褒めると、大臣はこの上なく同意するんだ。ナスは野菜の王です、とか言ってな」
その話を聞いたソウは、その大臣はずいぶんと虫いい奴だな、と返した。
「王は全く反対のことを言う大臣に怒ると、大臣はこう言うんだよ『王様、私はナスではなく、あなたにお仕えしているのであります。あなた様の言われることに反対して何の良いことがございましょう』ってな」
黙って聞いていたレットは、堪えていた笑い声が噴き出していた。
「お前、その話が昔から好きだよな」
笑いながらいうレット。
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