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その中で、スラム街からしばらく歩いた、ニューデリー駅方面にノリはいた。
色が白く小柄で、大袈裟な民族刺繍がしてある白い服の上に、この暑い中、黒いフードつきの上着を着ているノリを見て、すれ違う人は不思議そうな顔をしている。
日本人がめずらしいということでもない。
首都に住むインド人の多くが(物乞いや詐欺師は除く)、観光客に無関心だからだ。
だが、そんなコスプレじみた格好が目を引くのか、ノリはかなり目立っていた。
そんなノリに1人の男が声をかけて来る。
「ハローお嬢さん。グレイトなファッションだね。ベリービューティフルだよ」
その男は髭を生やして、上には迷彩服、下には白いライン線が入ったジャージ姿。
肌の色が黒く、顔も堀が深い、わかりやすいインド人だ。
英語交じりの日本語で話す髭の男。
どうやらノリを女性と間違えているらしい。
「いや、その……俺、男ですけど」
「デリーにはどのくらいの期間居るの? もし列車のチケットが欲しいなら、売り場もう終わっちゃっているから、買えるところへ案内するよ」
ノリの話を聞かずに続ける髭の男。
海外で、観光客へ気軽に声をかけてくる人間の多くは詐欺目的である。
おそらくこの髭の男もそうだろう。
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