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第20話 スラム街の雨 中編
バーレストラン『ヘブン・オア・ラスベガス』から出たダビシェは、イギリス人女性、クロエ・グラッドストーンが演説を行うという広場へ向かっていた。
その後ろに、ソウと犬のニンジャがついていく。
先ほどまで大降りだった雨が小雨に変わり、ダビシェは傘を店に置いて、ソウも手ぶらで店を出ていた。
ダビシェもソウも一言も話さずに、ただ小雨の中を歩いていく。
ソウは歩きながら思う。
……ラド。
あいつの目当てがクロエ・グラッドストーンなら、広場に来ている可能性は高いよな。
でも、奴がいたら俺は何をする?
あいつが何をしたいかもわからないのに……。
俯きながら、ソウは自分がどうすればいいかよくわからなくなっていた。
ただ、いなくなる前のラドが見せた表情を思い出すと、じっとしていられない。
「着いたぞ、小僧」
地面を見ていたソウに、ダビシェが半笑いで言った。
広場は、普段は誰も近寄らないスラム街の端に位置する場所。
雑草や時間の経過によって切り裂かれ、今にも崩れそうな建物が並ぶだだっ広い一角。
そこには多くの人だかりができていた。
お祭りでもあるかのようにスラム街の住人たちは、この雨の中をわざわざ集まって来ている。
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