第20話 スラム街の雨 中編

1/5
53人が本棚に入れています
本棚に追加
/176ページ

第20話 スラム街の雨 中編

バーレストラン『ヘブン・オア・ラスベガス』から出たダビシェは、イギリス人女性、クロエ・グラッドストーンが演説を行うという広場へ向かっていた。 その後ろに、ソウと犬のニンジャがついていく。 先ほどまで大降りだった雨が小雨に変わり、ダビシェは傘を店に置いて、ソウも手ぶらで店を出ていた。 ダビシェもソウも一言も話さずに、ただ小雨の中を歩いていく。 ソウは歩きながら思う。 ……ラド。 あいつの目当てがクロエ・グラッドストーンなら、広場に来ている可能性は高いよな。 でも、奴がいたら俺は何をする? あいつが何をしたいかもわからないのに……。 (うつむ)きながら、ソウは自分がどうすればいいかよくわからなくなっていた。 ただ、いなくなる前のラドが見せた表情を思い出すと、じっとしていられない。 「着いたぞ、小僧」 地面を見ていたソウに、ダビシェが半笑いで言った。 広場は、普段は誰も近寄らないスラム街の(はし)に位置する場所。 雑草や時間の経過によって切り裂かれ、今にも崩れそうな建物が並ぶだだっ広い一角。 そこには多くの人だかりができていた。 お祭りでもあるかのようにスラム街の住人たちは、この雨の中をわざわざ集まって来ている。     
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!