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第26話 何も聞かず、ただ謝る男
カウンター席に並んで座っている2人。
このバーには、他にもテーブル席が4つほどあり、インドの学生らしき若い男女が大声で盛り上がっていた。
ノリは、ミネラルウォーターとチキンティカ(一口大の鶏肉のタンドゥール焼き)を頼んだ後に、ゼラと同じものを店員に注文する。
それからすぐに、インディアン・ウイスキーのロックがノリの前に置かれた。
それに口をつけて、少しむせるノリ。
「うわぁ~、こんな強いの飲んでるの?」
ゼラは強張った表情のまま、何も話さそうとはしない。
だが、それでもノリは「チキンが冷めちゃうよ」だとか、「いい店だね」とか、どうでもいいことを話し続けた。
「お前……どうしてこの国にいる?」
ようやく声を出したゼラを見て、ノリは安堵の表情を浮かべた。
しかし、ゼラの顔に笑みはない。
それでもノリは笑顔を絶やさずに話をした。
ノリの師であり、ゼラに剣を教えた人物、西条紅雄(ゼラの持っている日本刀は、紅雄からもらったもの)。
彼の息子が、ニューデリーにいる話を聞いてここへ来たこと。
ノリはその話をした後に、もったいぶってからゼラの顔を見つめて呟くように言う。
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