第28話 救済 前編

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第28話 救済 前編

神様……。 どうか俺の大事な人を救ってください……。 ノリがデリー来る数年前――。 1人の少年がネパールの片田舎で、村のゴミを(あさ)って生きていた。 少年の周りには、他にも同じような子供たちが大勢いた。 子供たちは皆、男だった。 ネパールに浮浪娘はいない。 それは少女は商品になるからだ。 人攫いを仕事にしているマフィアから見れば、中国やインドに売られていく少女はいくらいても足りないが、男はどうしても余ってしまう。 少年は、その余って捨てられた浮浪児だった。 彼らのその後の多くは、シンナーを吸ってくたばるか、盗みをして殺されるかしか道がない。 ネパールは経済的に後発開発途上国で、世界最貧国の1つである。 1人あたりのGDPは184ヵ国中の167位(2011年調べ)で、アジアで最も貧しい国だ。 人口増加の影響によって、現在食糧危機の状態が続いている。 主たる産業は農業だが、近年の天候の不安定で干ばつや洪水が起こり、農作物に深刻な影響を受けていた。 特に山間部では売るための作物どころではなく、自分たちが食べるものすらままならないのが現状だった。 そのために浮浪児に分け与える余裕は、この国には残されていなかった。     
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