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人生を振り返るには最適な穏やで温もりを感じる日だった。
その休日の夕方、僕はバスルームの掃除をしてひとりで風呂に入ることにした。窓から差す陽射しがゆらめく湯気を透かし、ゆっくりとした時の流れを知らせている。
子供の頃、母と一緒に湯船に浸かると母は必ずと言っていいほど「肩まで入って、温まるんだよ」と数字を数え始めた。
いち、にー、さん、しー、ごー、ろく、しち、はち、
そして100まで数え終わると、僕はのぼせてザブッと慌てて湯船から出るのである。それを思い出して、湯の水平線の視線まで身体を潜らせて母の口調を真似て数えてみた。
きゅうじゅはち、きゅうじゅきゅ、ひゃく~。
母の笑い声。
その優しい声を聴きながら真っ裸で飛び上がる。するとザブッと湯が溢れて、僕は不思議な体験をした。
意識だけがタイムスリップして、過去へジャンプしたのである。
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