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『待て!ほんとは母をハグして別れたかったんだろ?でも照れ臭いのと、死を感じさせると思ってしなかったんだ』
僕はそれをしなかった事を母が死んでからもずっと後悔するのを知っていた。だから、ハグをさせようと試みるが、頭の中で叫んでも現在の僕には聞こえない。
心を引き摺りながら車を走らせると、助手座で娘が泣き出した。
家の前でずっとこっちに手を振っている母を見て涙を抑えられなかったのである。
超然とした佇まいで、寂しそうに微笑んでいる母の姿が心に突き刺さる。
走り出す前から僕もバックミラーに映るその母から目が離せなかった。
そして娘の涙で僕も声を出して泣いてしまい、子供みたいに感情が湧き出して涙がとめどなく溢れて頬から流れ落ちた。
「ハグしようと思ったんだ……」
「すれば良かったんだよ」
娘の返答に僕はブレーキを踏んでユーターンしようと思ったが、ただ泣きながら母が小さくなるのを最後まで瞳に写し込んで過ぎ去ってしまう。
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