【100回目のプロポーズ】

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【100回目のプロポーズ】

およそひと月ほどで納品です。 ドアの向こうに廣瀬様の姿が見えました、私はすぐに近付いてドアを開けます。 「こんにちわ」 初めていらした時は違う、明るく快活な笑顔です。 「お待ちしておりました」 店内に入っていただき、トルソーに着せたスーツをお見せしました。廣瀬様は目を細めて嬉しそうに微笑みます。 「もう一度試着してみますか?」 「いいえ、大丈夫です」 「ではお包みしますね」 作業台に薄紙を広げて、スーツをトルソーから脱がせます。 ああ、それと。忘れていけないものがあります。 ミシンの奥にある棚から、帽子を手にします。スーツと同じ布で作ったトーク帽です。 「これを、おまけさせていただきました」 「え!?」 そっと廣瀬様の頭に乗せました。 キリスト教での葬儀で喪主や親族が被るものです。それを白で作り、更に長いラウンドベールを付けました。葬儀用ならば顔を覆うくらいが標準ですが、敢えて腕の中程までかかります。 「……これは……」 「ウェディングベールの代わりです」 「え……っ」 鏡越しに目が合っていましたが、驚き大きく見開かれた目は、ご自身の姿をまじまじと見つめ始めました。     
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