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月日は流れて、私は、市内にある大学を卒業し、市内にある百貨店に就職した。
百貨店を選んだ理由は単純だった。
大学2年から、街なかの玩具店でアルバイトをしていたが、その向かい側にこの百貨店があった。
毎日のように百貨店を見ていたら、私に合っているように思えてきた。ただそれだけの理由。
1ヶ月の研修の後に配属されたのは、1階の婦人小物のコーナー。
正面玄関から入ってすぐのところで、ハンカチとかスカーフ、アクセサリーからカバンまで、割と広いスペースでの展開である。
1ヶ月の研修で、繰り返し接客やレジの練習はしたが、実際のお客様相手では、緊張感が伴いマニュアル通りにはいかない。
それでも何とか落ち着いてきて、商品を確認していると、隣の靴売場の販売員が近付いて来た。
「あのー、もしかして、この向かいのおもちゃ屋さんで働いてませんでしたか?」
「あっ、はい、働いてました。あっ、もしかして…」
私は彼女に見覚えがあった。
百貨店には女性従業員の為の制服があったが、売場によっては、私服が許されているコーナーがあり、彼女はスーツを着ていた。
そして時々、帰りに私がバイトしていた玩具店に立ち寄っていた。
「パズルの人ですよね?」
と言うのは、彼女はいつもパズルを買いに来ていて、あれこれ悩んで時間をかけて決めていたので、バイト仲間の間で「パズルの人」と呼ばれていた。
「はい、パズルが好きなんです。いつも買いに行ってました。」
そう言うと彼女は目を輝かせて微笑んだ。
「ここで働いていらしたんですね。私、新入社員の川岸さくらです。よろしくお願いします。」
私が改めて挨拶すると、彼女は少し慌てて、
「私は、3年目の斎藤みどりです。ずっと靴売場担当よ。あっでも、多分同級生だと思う。多分…。」
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