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試合前の静寂の中、みどりさんも少し緊張しているように見え、私までドキドキしてきた。
「みどりさん、手を出して。」
私は、みどりさんの両手を私の両手で包み、少し力を入れて、
「いつもの練習通り、いつもの練習通り、いつもの練習通り。」
とおまじないのように、唱えた。
「さくらちゃんありがとう。私のプレー、さくらちゃんに一度ちゃんと見て欲しかったの。頑張るから、見ててね。」
私は、改めて(来て良かったな)と感じた。
開会式が始まり、続いて試合が総当たり戦で予定通り行われた。
2試合目、みどりさんの出番がきた。
最初は、固かった動きも徐々に滑らかになり、それが、いつものおしとやかなみどりさんとは別人のように、早く野性的な動きへと変わっていった。
かっこよかった。というか
かっこよすぎて驚いた。
顔つきが鋭くなり、肩が上がって、動きの切り替えの速さが秀逸で、見ていて素晴らしかった。
女だからか、すぐに囲まれてボールを取られそうになるが、巧みにかわしてゴールを決めた。
私は、2階の応援席から、
「みどりさんナイスゴール!」
と叫んでいた。みどりさんも私を見て手を振ってくれた。
ロングシュートが決まった時には、感動し過ぎて両腕のざわざわが止まらなかった。
試合後、応援席に戻って来たみどりさんに、私は自然に両手を出した。みどりさんも駆け寄ってきて、ハイタッチしてくれた。
その一瞬で、私はある事を思い出していた。
顔の近くの割と間近でハイタッチして、合わさった手の先の指の先端が少し曲がって、一瞬、握り締められるような感触。
昔、中沢君とやっていたハイタッチと同じ感触。あの時の感触が鮮明に蘇ってきた。
ほんの一瞬だったけど、懐かしさが込み上げ、思いもよらず、涙が溢れてきた。
みどりさんがそれに気付いて、
「まだ、1回勝っただけよ。泣くの早いよぉ。」
と困ったように私の顔を見た。私は慌てて、
「ごめん、みどりさんがあまりにもカッコ良すぎて、感動してるの。」
すると彼女は、その大きな手で私の頭を優しく撫でてくれた。
試合は準優勝に終わり、私は、後日行われた祝勝会にも参加させて頂いた。
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