4人が本棚に入れています
本棚に追加
「……あれ?」
急に柵が目の前から消えた。支えを無くした手はガクリと脱力し、それが体にも伝わる。
体がビルの外に投げ出された。
浮遊感。
(あ、老朽化か)
頭は冷静に動いている。錆びていたから僕のかけた重さに耐えられなかったのか。
空が、見える。
回旋するように鳥が飛んでいる。
(僕、お前の所には行けないみたいだ)
僕に羽はないし、何より重力が僕を地面へと引き戻すんだ。
空からどんどん離れていく。
(空なら、僕は誰にも笑われず……居られそうだったのに……)
地面に立っていても、水の中にいても僕は誰かの笑いものだった。それから逃げたかった。
正確には、逃げた。
逃げて、家に篭もったら、今度は両親が腫れ物を扱うように接してくる。
苦痛だった。
そんな生活の中で、ふと、ここが居場所じゃないと思って唐突に行動に出てみた。
母さんは外に出た息子にさぞ安堵した事だろう。
母さんの笑った顔が脳裏を過った。
でも、そこへは帰れそうもない。
(ごめん、母さん)
グシャリ
「……カハッ」
骨の折れる音がした。肺に骨でも刺さったのかヒューヒューと変な息が漏れる。
お腹のあたりが熱い。一緒に柵も、落ちたはずだから破片が刺さったのか。
足は感覚がないけれど、変な方向に曲がっていて、完璧に折れてるのが素人目にも分かった。
ていうか、意識が落ちないとか……高さが足りなかった?じわじわと体が痛くなってくる。
呼吸も苦しい。
ポケットに携帯を入れてきたが落下の衝撃で壊れているだろう。仮に動いたとしても腕が動かない。
とにかく、僕の体は悲惨なことになっているだろう。
酸素が回っていないのか、視界が狭まってきている気がする。ヒューヒューと息をしながら、必死になって体を仰向けにする。
「……は、は綺麗、だな、ぁ」
真っ青な空。
出来れば、そこで生きたかった。
(パイロットにでも、なればよかったかな)
なんて、思ってももう遅い。
目頭が熱い。
ひとしずく、つーっと頬を伝った感覚を最後に僕の意識は途絶えた。
最初のコメントを投稿しよう!