2 激しい雨風の中、若い差配は荒野に倒れる

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 女主人が目配せすると、男猫たちは迅速に動いた。ものの数分もしないうちにゲルトルーデを乗せた馬車は、吹き荒れる雨風の中に姿を消した。  ジェレミーはホッと一息をつくと、愛馬に歩み寄ろうとした。しかしその瞬間、愛馬は大きくいなないて後退りした。首を振り、目を大きく見開いて鼻息が荒い。完全に怯えている表情だ。 「おい、いったいどうしたんだ?」  ジェレミーは愛馬の手綱をつかまえようとした。しかしその瞬間、ジェレミーに激しいめまいと胸の動悸が襲いかかってきた。たまらず若い差配は、草むらに倒れ込んでしまった。  雨が強くなってきた。冷たい雨粒がジェレミーの頬を濡らし、シャツに伝わって体を冷やし始める。寒い。ジェレミーは、自分の意識が徐々に薄れていくのを感じた。 「ダメだ……。あの女に、いったい何をやられたんだ? このままでは、本当に死んでしまいそうだ……」  ジェレミーは最後の力を振り絞って叫んだ。すると遠くから返事があり、草と草の隙間から、数名の警官が生い茂るヘザーを蹴散らしながらやって来るのが見えた。 「ここだ……。ここだ……。早く来てくれ……」  ジェレミーは喘いだ。しかし彼の意識の糸は、ほとんど切れかかっていた。  そしてついに最後の瞬間が訪れた。激しい吐き気を伴って、ひときわ大きく心臓が波打ったのだ。  ジェレミー・ディスフォードは胸を押さえて悶絶すると、そのまま意識を失ってしまった。
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