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「どうしてって……。若旦那様が荒野で倒れていらっしゃるのを警察の方が発見されて、担ぎ込んできたのです。それでネリー様と私が交代で看病を。若旦那様は丸一日眠っておられたのですよ」
ルーシーは、水差しに入ったお湯と洗面器を、盆に乗せて持っていた。ふっくらとした清潔なタオルが折りたたまれて、細い腕にかけられている。それを見て、ジェレミーは嫌な予感がした。
「まさかそれで、僕を拭くつもりなの?」
嫌な予感は的中した。可愛いメイドはニッコリと微笑むと、小さくうなずいて見せたのだ。ジェレミーは、全身の毛穴が粟立つような心地になった。
「ど、どうしてそんなことを?」
「どうしてって……。まじない返しです。若旦那様は、何者かから悪質なまじないをかけられたご様子でしたので」
「ま、まじないだって?」
「はい。ですから、香草入りのお湯で体をお清めしています。ネリー様から一日に数回そのようにしろ、と言いつけられていますので、私が昨夜からお世話させていただいています」
ジェレミーは周囲を見回すと、ピクピクと鼻をひくつかせた。言われてみれば、確かにハーブのいい匂いがする。すると胸の痛みが消えたのはこのおかげだったのか、とジェレミーは得心した。
フムフムと、ひとしきりジェレミーがうなずいていると、そろそろとルーシーの手が伸びてきた。シーツをはぎ取り、ジェレミーの体を拭くつもりなのだ。
「あっ。ダメだよっ!」
ジェレミーはメイドの企みを察すると、慌ててシーツを引き寄せて身を固くした。
「でも、仕事ですから」
「仕事でも、君ではダメだ。ネリーを呼んできてくれ」
「ネリー様は町に買い出しに出かけられています。早くしないとお湯が冷めてしまいますわ」
「だったら自分でやるよ。これは命令。君は適任じゃない」
「あのう……。若旦那様の裸なら、もう何度も見ましたけど」
「えっ?」
ジェレミーは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
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