4 トニヤ・ジョッセルは、下手糞画家呼ばわりされる

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「二週間前に遺跡付近で起きた惨殺事件の被害者は、二十歳前後の若い女性だよね。僕の妹は大人だけれど、こーんなに小さいんだ。被害者の女性とはサイズが違うよ」  トニヤ・ジョッセルが片手で円を描いて示したサイズは、大人の女猫にしては明らかに小さすぎた。それではまるで、赤ん坊か抱き人形の大きさだ。  彼は本当に下手糞な絵描きなのかもしれないと、ジェレミーは思った。 「ご心配なく。僕の妹は無事なのがわかった。どうやら新しい仲間を作って、この土地へやって来ているらしい。その理由は、僕に内緒にしたいようだが」 「そ、そうですか。無事が確信できるのならば何よりです。しかしながら、どうしてそれがわかるのですか?」 「ああ。それは、こいつが教えてくれたんだよ」  トニヤ・ジョッセルは、ジェレミーの鼻先に懐中時計をぶら下げた。 「さっきから説明が中途半端になってすまなかったね。僕は時計を振り子のように使って、妹の状況や居場所を探していたんだよ。その結果、妹は無事だということが判明した。そして彼女は、自分の意志でここにいる。そう、君のすぐ近くにね」  トニヤ・ジョッセルはそう言うと、懐中時計をベストのポケットにしまった。そして若い差配に向かい合った。
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