4 トニヤ・ジョッセルは、下手糞画家呼ばわりされる

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「本当は、すぐにでも王都へ妹を連れ帰りたいんだ。妹の姿が見えなくなって以来、僕の母猫が半狂乱になっているからね。君の許可をもらえば、それができるのだが」 「ぼ、僕の許可ですか? しかし僕には、いったい何のことやら……」 「ありていに言えば、僕の妹はこの屋敷にいるんだよ。家探しをさせてもらればすぐに発見できるのだろうが、それには新しく当主になった君の許可が必要だろう?」 「何ですって! あなたの妹さんが、この屋敷にいるのですか?」  ジェレミーは眉根をきつく寄せると、考え込んで腕組みをした。  許可を出すのは簡単だが、自分で自分を魔法使いだと自己紹介し、意味不明なことを喋りまくる画家が、とても気味悪く思えたのだ。はたしてこのような猫に、家探しをさせる許可を出していいものだろうか。  それに加えて画家の言う妹とやらは、本当にこの屋敷内にいるのだろうか? それはどうにもうさん臭い。  画家の妹とやらを推測するならば、二十代半ばくらいの女猫になるのだろう。しかし屋敷内では、ついぞその姿を見かけたことはないし、本当にいるとすれば不法侵入だ。  ジェレミーは助けを求めるような目つきになって、正式に上司となった黒猫の執事を見つめた。しかしジャック・ルドーは、ニヤニヤ笑いを浮かべるだけで助け舟を出してくれそうもない。 「もういいよ。了解した。どうやら家探しの許可はもらえないようだね。君を悩ませてしまって、申し訳なかった」  トニヤ・ジョッセルはそう言うと、ジャック・ルドーに目配せをした。二匹の男猫はおもむろに立ち上がった。
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