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大通りに出ると、ダーオは道脇のフェンスに寄りかかった。目の前の通りは行き交う馬車で賑わい、活気にあふれている。
「ロレダーノ伯爵夫人は、あの間抜けな貧乏画家にお話があるのよ。それはきっと、とても大切なお話。でもそれを伝えきれずにいるのだわ」
「そうなのですね。でも、ジョッセル様は間抜けじゃありませんよ。僕の義父にかけられた呪詛を解除した時の働きぶりは、それは見事だったと聞いています」
「そっちの方は、ね。でも、あっちの方は、てーんで間抜けなのよ」
「そっちの方とか、あっちの方とか、方角ですか?」
マイケルは美しい友人の言っている意味がわからず、眉根を寄せると、再び首をかしげた。夏空を写し取ったような青い瞳が、シャム猫の少女に答えを求めている。
しかし、ダーオ・ブッチーニはそれにはかまわず、スモッグで汚れた建物を越えて遠い空を見つめた。王都の空は灰色の雲で覆われていて、暗くて重い。
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