17人が本棚に入れています
本棚に追加
「これは申し訳ありませんでした。私が何者か警戒していらっしゃるのですね。ご安心をしてください。私の名はジェレミー・ディスフォード。このランカスター子爵様の荘園で、差配人である父の代理をしている者です」
ジェレミーは愛馬から降りると、黒衣の女猫に歩み寄ろうとした。すると石柱群の外側にいた男猫たちが、血相を変えて駆け寄って来た。彼らは、突然現れた若い役人に強い警戒心を抱いている。
「観光ですわ。お若い差配様」
黒衣の女猫は片方の口角だけを吊り上げると、ゆったりとした調子で返事をした。青灰色の毛並みをした猫で、くっきりとした品のある顔立ちをしている。
女は片手を持ち上げると、今にも飛び掛からんばかりになっている男猫たちを下がらせた。
「遺跡の観光ですか。それにしては、ひどい日を選んだものですね。助言ですが、一刻も早く宿へ戻られた方がいい。雨も今より強くなりそうだし、夜には季節外れの嵐になりますよ」
「ええ。実はそのつもりでしたの。まだ遠い様子ですが、雷鳴が聞こえましたものね」
「賢明なご判断です。では早く」
最初のコメントを投稿しよう!