3 可愛いメイドは、フランス人形を抱いてやって来た

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3 可愛いメイドは、フランス人形を抱いてやって来た

 ジェレミー・ディスフォードがうっすらと目を開けると、最初に目に飛び込んできたのは、天井を真横に走る大きな梁だった。  焦点が合わなくてぼやけているが、小さな子どもの頃から見慣れている、古くて黒い我が家の梁であるのは間違いない。  そして次に目に入ったのが木枠の窓だ。こちらもぼんやりしているが、風でカタカタと鳴る板ガラスの向こう側には、見慣れた景色が広がっている。  ジェレミーはいつの間にか自分の屋敷に戻っていて、温かな自分のベッドで横になっていた。  確か、吹きすさぶ荒野で死にかけたはずだったが、いったいどうしたことだろう……と、ジェレミーは思った。心臓を氷のように冷たい手でわしづかみにされたようで、あれほど苦しかった胸の痛みが嘘のように消えているのだ。  冷たい雨。美しくて品があるが、どこか薄気味の悪い女。そして禍々しい響きの呪文のような言葉。あれらは悪い夢だったのだろうか。  ふいに部屋の隅で物音がした。驚いてそちらを見ると、ジェレミーの瞼にたゆたう影が見えた。だれかが傍にいるようだ。 「そこにいるのはネリーかい? 僕はいったいどうしたんだろう」  ジェレミーは、古参のメイド長の名を呼んだ。ネリーはジェレミーが生まれる前からこの家にいて、乳母(ドライナース)でもあったメイドだ。早くに母猫を亡くしたジェレミーと彼の弟は、彼女を実の母猫のように慕っている。 「いいえ、私はルーシーです。良かった。お目覚めになられたのですね」  小川のせせらぎを聞くような、爽やかな声で返事があった。その声を聞いたとたん、ジェレミーの心臓が波打って、目の前に広がっていた(もや)が消え失せた。 「ル、ルーシーだって? 君がどうして僕の部屋にいるの?」  ジェレミーは、大慌てでベッドから跳ね起きようとした。しかしその瞬間、自分が丸裸であることに気がついた。ジェレミーは鼻の頭を真っ赤にすると、金色の差し毛が混じった美しい茶色の毛並みをシーツで覆い隠した。
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