4 トニヤ・ジョッセルは、下手糞画家呼ばわりされる

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4 トニヤ・ジョッセルは、下手糞画家呼ばわりされる

 ジェレミーが応接間に入ると、室内にいた男猫たちの目がいっせいに注がれた。  さっそうと歩いて見せると、病気のせいでいつもは無口な父猫が、息子の元気な姿を見て安堵の表情を浮かべているのがわかった。  二匹の客のうち、黒猫の方の顔はよく知っている顔だった。顔面傷だらけで鼻が潰れている執事など、たとえ王国中を探しても、そう滅多にいるものではない。  ジェレミーはにこやかな笑顔で歩み寄ると、ジャック・ルドーの差し出した手に握手を返した。 「具合の方はもう良いのかい? 冷たい雨の降る荒野で倒れていたと聞いたが」 「実はさっきまで眠っていたのです。雨に濡れたせいで、身体が冷えすぎてしまったのでしょう。しかし、もう大丈夫ですよ」  黒猫の前でジェレミーは胸を張って見せた。すると、窓際に寄りかかって佇んでいたもう一匹の客が、注意深く自分を見つめていることに気がついた。  淡いグレーとチャコールの縞模様で、青と緑でまだら模様になった瞳を持つ猫だ。 「あちらの方は?」 「俺の連れだ。トニヤ・ジョッセル、かなりへんてこな絵を描く絵描きだよ」 「かなりへんてこな……とはひどいなぁ。よろしく、トニヤ・ジョッセルだ」  紹介されるやいなや、トニヤが握手を求めて手を差し出してきた。  彼の鉤爪や服の袖口には絵の具がこびり付いているので、画家であるのは間違いないようだ。しかしながら、どこかただならないムードを持っているのは、荒野で出会ったあの女猫と同じだ。  ジェレミーは手を出そうとしたものの、相手の手を握るのをためらった。
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