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さくらんぼ
「ご、ごめんなさい、てっきり、おじいちゃんの知り合いかと…、うちの店、いつもおじいちゃんの知り合いしか来ないから、えっと、その」
彼女は慌てた様子で待ち合いの椅子を用意している。
「あの、おじいちゃん、すぐ帰って来ると思うので…」
「いや、えっと…」
「少し待って頂けたら……」
そう言いながら、中腰で椅子を用意した彼女が僕を見る。
僕を見た彼女は…
そのまま、ゼンマイの切れた機械仕掛けの人形のように止まった
ポカンと口を開けたまま、彼女が僕の顔をまじまじと見ている。
彼女の瞳が隈無く動いて、まるで、僕の顔の全てを走査しているかのようだった。
そのまま、幾秒が過ぎただろうか。
それとも、もっと長い時間か…
僕は…
僕を見つめたままの彼女に手を差し伸べた。
別に、手を取ってくれなくても良かった。
ただ、なぜか彼女の瞳に寂しさを覚えた僕は、手を差し伸べずにはいられなかった。
中腰だった彼女は、立ち上がると、うつむいて僕の手を取った。
彼女の手が柔らかくて暖かくて、僕はもっと触っていたくて、そっと彼女の手を握りかえす。
彼女はうつむき、僕に手を握られたままだった。
僕は、うつむいたままの彼女を見つめる。
どのくらいそうしていただろう?
「えっと…」
僕は口を開いた。
「…あっ」
僕の声に反応して、彼女が顔を上げる。
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