SOUL FRIEND#41の後

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ドンっ・・と何かに当たって、カイはハッとした。 目が覚めた、と言ってもいい。 何しろ今の今まで、彼はム意識に歩いていたのだ。 やっと焦点の合ってきた目が 映す街並みに 見慣れたドラッグストアがある。 どうやら自分の部屋がある イーストヴィレッジの7丁目まで 来ているようである。 ぶつかった相手は、家路に着こうとしている若いカップルだった。 彼らもまたイヴのパーティーからの朝帰りらしく、 男のほうは パーティー用のキラキラ三角棒をかぶったままで けげんそうにカイを振り向いている。 クリスマスの朝が明けようとしている イースト・ヴィレッジ。 立ち並ぶアパートメントが、 まるで古ぼけたセピアカラーの映画の中に 入ってしまったように映る。 カイは 自分のカラダの感覚が、 ヒナを失ってこの街に着いた時と  同じ状態になっていることに気がついた。 世界から色が消え、 肌をくすぐる風はなくなり 味覚まで遠のいていたあの頃に。 「 ・・いけない・・。 」 首を横に、強く振る。 ここ、マンハッタンは弱肉強食の 欲望の街なのだ。 自分で自分を守れなければ、 ちょっとのスキを察知して群がってくる スリ、強盗、詐欺、ドラッグの売人なんぞの、 あらゆる悪意に、喰われるしかなくなる。 2年前NYに来た頃には、 そんな街中の ピリピリと張り詰めた空気が カイの生存本能を発動させて、 生きる気力を引き戻したことも 事実だった。 「しっかりしろ・・!」 そう自分に言い聞かせ、顔を上げたその先には 自分のアパートメントが見えた。 窓の明かりは消えている。 いつの間にか “2人の部屋” になっていたそこに向かって、 カイは灰色の朝を歩いた。 そして もう今は  “自分の部屋” に戻ってしまったそこに向かって、 重たい足を一歩一歩 階段にのせ 上がって行った。 3つのカギを開けて中に入ると、 部屋は静まり返っていた。 誰もいないその部屋を見ることができず、 電気をつけないままで ベッドに どすんと倒れ込む。 がらんと空いた薄暗い部屋に、 24時間稼働している 据え付けのヒーターで暖められた 空気の生ぬるさが白々しかった。
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