かみ

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 その麦畑を三つに分けて根元から君が痛がらないように慎重に編んでいく。編みながら頭の中で編み目の数を数えた。  もう癖になってしまっている。  1、2、3、4……。  そうしながら昨日のテレビの話や、高校のテストの話や、部活の話や、そんな他愛ない話を君が聞こえるくらいの声で話した。  君は返事をしないけど、きっと届いてると思う。君の耳は聞こえていないわけじゃない。  高校に上がる頃には、君がガラスみたいな声って言って褒めてくれた俺の声も、もうひび割れたような深い声になってしまった。この声を聞いたら君はなんて言うのかな。俺は少し怖いよ。こんな声になった俺を……君は俺だって気付いてくれるのか。  君も俺と同じように最低限の栄養で年相応に成長した。身長だって……ちゃんとした数字は知らないけれどきっと二〇センチも三〇センチも伸びた。俺よりはずっと低いし、ずっと細いけれど。だけど長い睫毛も薄い唇も変わらない。  君への気持ちも変わらない。なにも変わってないよ。だからなにも心配いらない。  27、28……29……?  君も声変わりをしたのかな。そうだとしたら一体どんな声で喋るの? 俺の中の君の声はずっと蜂蜜みたいに甘いままだ。笑顔も泣き顔も、困った顔も怒った顔も、恥ずかしそうな顔も、幸せそうな顔だって……500円玉がすごくすごく大金だと思っていたあの頃のまま。止まったまま。  55、56、57、58……。  俺はたまに思う。君は俺を覚えているのかなって。三つ編みのことも、花のことも、自分のことも忘れてしまっていたら……そう考えると建て付けの悪い押し入れの中に閉じ込められたような気持ちになる。
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