かみ

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かみ

 髪を伸ばしたい、と言っていた君の髪を毎日三つ編みにしてあげるのは俺の仕事だ。その時の君の髪はまだ編めるくらい長くはなくって、俺もはじめてで全然上手にできなくて、長い妹の髪で、なんどもなんども練習した。  俺がそれなりに上手に編めるようになったころには、君の髪の毛は編み目が三つになるくらいの長さになっていたっけな。  3つの編み目の三つ編みを鏡で見た君は……今まで見たことないくらい幸せそうに笑って俺にこう言った。  また編んで、ずっと、毎日編んでほしい……って。  俺はからっぽの花瓶に持ってきたマーガレットの花を生けた。一輪の紅い花。  この花を麦わら帽子に差して、すごく嬉しそうに夏の草木が揺れる陽炎の中を駆け回る君のことを、俺は昨日のことみたいに覚えている。  これは決して思い出ではない。だって君はここにいるから。 「おはよう、今日は高校が休みだから朝から来られたよ」   ベッドの端に腰を落として笑いかける。  君は返事をしない。  いつも通りだ。  閉じた瞳はぴくりとも動かない。  俺は君の髪を梳く。手櫛ではもう梳ききれないほどの長さになった。 「髪、編むよ」  戸棚からブラシを取り出して髪を撫でた。君の左の肩のほうに髪を流して、ゆっくり梳いていく。色素の薄い夏の夕暮れの日差しのような色の君の髪は、細くて柔らかいから結構引っかかりやすい。  丁寧にとかしていくと俺の目の前に麦畑のように彼の髪が広がった。せっけんのいい香りがする。
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