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「……さて。
元々私は、エクシアの堕天化の原因の調査で此方に来たのだ」
俺が変身を解いたのを確認すると、ウリエルはナイフを腰の後ろに収納する。
「わざわざウリエル様が、ですか?」
「エクシアの堕天化には不審な点があったのでな、年老いた老兵の見識を寄越せとの上からの通達よ。
いい加減、隠居したいものだがな」
ウリエルが心底嫌そうにぼやくのをセンパイは苦笑いしてまぁまぁと宥めている。
まるで年の離れた親子のようではないか?
「さてエルゥよ。お前の報告通りならエクシアの遺品を回収しているらしいが」
と、愚痴を交えながらも本題からは外れないウリエルにセンパイはエクシアのディスクを取り出した。
「ふむ……人の子よ。
最初にエクシアと出くわしたのは君のようだが、君が見た彼女の感想を教えてくれ」
「変身するまでは完全に視認出来ないかったな。センパイも声を聞くまで誰だか判断できなかったし。
後は、異常な障気を纏いながら下位の悪魔も引き連れてた……今にして思えば、堕天使が悪魔ってのも違和感があるが。
変身して漸く見えたのは……黒い体に赤い和装、所々に蜘蛛の特徴、能力。そして対峙する者から力を奪うような能力か
やがて赤い体に白い着物に変化したが……会話は、殆ど通じなかったよ」
「特徴を捉えた観察感謝する。お陰で8割方は予測がついたよ」
俺がエクシアの特徴を列挙するとウリエルは時間を要せずに結論に辿り着いたらしい。
「エクシアはただ堕天した訳でなく、堕天の際にその土地に居合わせた土地の怨霊、具体的には……土蜘蛛の類を取り込んでしまったらしい」
土蜘蛛か、古来より伝わる日本の妖怪。
俺みたいな悪魔、悪霊狩りをメインとする退魔師とは別にそう言った魑魅魍魎を狩るエキスパートもいるとは聞いた事がある。
「本来堕天とは己の身一つに起こるものだが、稀に周囲を巻き込んでしまう事例があるのだ。
場合によっては堕天した者をより醜悪に変えてしまう。
障気が異常だったのも、ましてや堕天の身で下位悪魔を使役したのもそう考えれば合点がいく」
「ああ、そうか。センパイがエクシアの声を聞くまで相手を特定出来なかったのはそう言った理由が……」
「だろう。堕天しても元の姿から逸脱しすぎる事はあまりないのだ。
この遺品にも殆ど消えかけているがエクシアとは別の何かが交わり付着していた形跡がある」
ウリエルの言う事は俺に天使、堕天使の知識を与えると同時に昨日の状況を振り返っても矛盾なく事件の概要を浮き彫りにしてった。
と、ここで彼の掌が俺の肩に置かれる
「いきなり例外の堕天使を相手取り、よく我が不肖の弟子を守ってくれた。ありがとう」
鎧ごしの筈の肩に暖かみを感じる。当たり前の事をしただけ、だろうに。なんとも心地よい言葉なのだろうか。
「……いや、守られたのは俺だ。センパイがいなきゃそもそも戦いになったか……。
今も昔も貴方達の加護には助けられてるよ」
「……。そう言ってくれると、我が弟子もきっと誇らしいだろう。
今後もエルゥを宜しく頼むよ、辻 天理君」
そう言って手を離したウリエルはディスクをセンパイに返却すると腰に巻いた翼を広げる。
「おじ……ウリエル様、先程の悪魔を?」
「そうだ。エクシアの暴れた現場を確認した後にそちらも対処する。
明朝にお前の気配を追って合流しよう」
ウリエルはどこか名残惜しそうに詰め寄るセンパイの頭を、俺の視線を気にして躊躇いかけたが最終的には根負けして一度撫でる。
「エルゥ。人界は不安だろうが、これも一つの試練だ。自分と、彼を信じなさい」
「はい……!きっと務めを果たします!」
そうして師としての助言を終えるとウリエルは飛翔しエクシアと戦闘があった方向に消えて言った。
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