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もはやノイズは無く、ダークな雰囲気の旋律がディスクから紡がれる。
これが、クロエさんの曲、なのだろうか?
「……フッ!」
不意に前方から飛んで来るナイフが身体を貫くより速く、手のナックルで叩き落とす。
「……ほう、狩りや駆除ではなく……殺すに相応しき在り方になったか」
翼を展開し急接近したウリエルの振り下ろすナイフをその持ち手ごと逸らしながら
思い切り跳躍して宙返りの要領で彼の顎に蹴りを放っていた。
自然と身体がするべき動きを理解し実践している、無我の境地とはこのような状態の事をさすのかな?
等と余分な思考を払いのけながら、着々と同時を狙って投げられた複数のナイフを両腕の装甲から出現した赤い爪で迎撃する。
「はぁ……………ハッ!!」
念を込めて片方の拳を突き出すと、装甲から3本の爪が針のように解き放たれ、ナイフを弾きながらそのままウリエルの胸に突き刺さった。
が、何か……不自然だ。
「……?」
間違いなく当たると確信した3本の爪、内2本は届く前にかわされていた。
そして、その直前……2本だけ不自然に速度が落ちた。
「……反転?」
ふと、先程のウリエルの言葉が脳裏を過る。
前回のウリエルは俺のスピードを上回る速さだった。
あれはただ速いと言うよりは何かの力を用いて『自身を加速している』と、今にして考えて漸く気づく。
もし、その力さえ逆になったのなら……
「『他者を減速する』力……ですね?」
「くくっ、そうだとして……対処出来なければなぁっ!!」
ウリエルの掌から黒みがかったエネルギーが発せられる。
咄嗟に身を翻してかわしながら接近を試みるが、無数のナイフが絶妙なタイミングで駆け出そうとする脚を掠めていった。
「っ……重……!」
脚が重い、いや怠い……全力で駆け出そうとしてもまるで夢の中、感覚に身体がついてこない。
ああ、やはり俺の考察は当たっていた……もっとも、この証明の仕方は間違っているのだろうが……。
「私も一つ、教えを乞うとしよう。
堕天した身で悪魔や人を殺す感触と、感覚を……無論、その身をもってな」
「……、ハッ…………ハァァ……!」
堕ちた天使は黒き翼をはためかせ一直線に俺の元に迫る。
既に遅滞したこの身でかわす事は叶わない……なら、その一瞬を逆転につぎ込もう。
脚に続き遅くなる体、ベルトに僅かに触れると全身を漆黒のオーラが駆け巡り、その全てを片腕の爪に注ぎ込み、振るわんとする
「それでは、間に合わんっ!!」
「ハァァッッ!!」
両者の叫びが響いた次の瞬間、金属が貫かれる音に続いて血飛沫が勢いよく吹き出した。
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