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「愚かな……。
その愚鈍な身で、何故反撃を狙う?」
「は、ぁ……ぁ………」
「何故、その愚かな一撃が……
──我が一撃より速く刺さる?」
俺がゆっくりとウリエルの胸に刺さった爪を引き抜くと、お互い力が抜けたように後方によろめいていく。
「……貴方も遅くなってたんですよ」
「馬鹿な、私に私の力が……!」
「違う。
貴方の動きを鈍らせたのはきっと……天使としての貴方です」
崩れそうな身体を踏みとどめて俺が指差すのはウリエルの身体。
黒く染まった彼の体の一点が、不自然に光っていた。
「……ああ。そうか、無駄では無かったのだな……」
納得したようにウリエルが呟きながら身体から一本のナイフを引きずり出す。
恐らく彼の内部に刺さっていたそれは、ウリエルの堕天の力と相反して不協和音となり、彼の動きを鈍らせたのだろう。
……まるで、呪いを拒もうとして獣になった誰かのように。
「貴方が接近してトドメを刺そうとしたのも
反転して尚、自分を殺させようとした天使としての無意識下の誇り、だと思います」
彼ならナイフを投げ続けた方がよっぽど確実に俺を殺せた。なのにそうしなかったのは……
「希望的観測だな。
もはや私には善悪の区別も、天使としての感情も自覚出来る状態ではない。
だが……」
ウリエルは俺の後方に眠る少女に視線をやり諦めたように肩を下ろす。
「残念だ。やっと見つけたものを……
なんとしても私の手で、と思っていたのだがな」
胸から滴る黒い血を撫でながら、ウリエルは再び飛翔の姿勢をとる。
逃げるのか、そもそも俺の一撃は致命傷にならなかったのか……?
「見事な一撃だったが、『浄化』は出来んか
……未熟故、それとも悪魔の力では成せぬのか
これで私は……アレに委ねるしか無くなったか」
飛び立つウリエルを見上げる事しか出来ない俺、夜明けの太陽を背に浴びながら彼は最後に一度俺を見て
「無明の戦士よ……その道を、恐れるな」
堕天使の助言は祝福と言うのだろうか、まあ……悪魔にとっては……等と考えながら去るウリエルを見送ると、俺は限界を迎えて変身が解けた。
「……とりあえず、帰ろっか?」
始めての危機を一先ず乗り越えた事に安堵しながら、俺は穏やかに眠る少女をおぶって帰路を歩み始めた。
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