3人が本棚に入れています
本棚に追加
「……大丈夫、ですか?」
「死にかけだったくせに一丁前に他人の心配とか……笑えるんですけど?
……で、動けるんですか?」
荒れた息を整えて問いを投げ掛けた彼女。その解を示すように右手に力を籠めてみる。
「………懐かしい」
さっきまで感覚すらなかった右腕はゆっくりと上がり、掌は一度開いてから握り拳をつくっていた。
何時振りだろう、自分の身体が自分のものであることを実感するのは?
「動いた?良かった良かった、
初めてなのに完璧……いえ。これで契約成立ですね?」
なんか聞き捨てならないことが聞こえた気がしたが……うん。
よそう、結果が良ければ目を瞑ろう。
「じゃ、私はこの辺で失礼しますね?
アナタも今夜はグッスリと眠っていいですよ、
私に尽くすのは明日からで結構ですので?」
「……気遣いありがとうございます。
そういえば、契約者の名前位は聞いておきたいんですが?」
「それもそうか……、……『クロエ』
しがない悪魔です。ま、よろしく」
「俺は朝陽……黛 朝陽です。
これからよろしく、クロエさん」
差し出した右手で彼女と握手を交わし思ったより小さかった手に違和感を覚えつつ、手を離す。
「アサヒぃ?
……うぇっ、悪魔のクロ(黒)エに朝陽とか……なんか初っぱなから相性最悪そうですね、私達」
そんなものだろうか、嫌そうに吐き捨てた彼女は椅子から立つとドアの方に歩いて行く。
「ああ、あとクロエさん……別に無理して敬語なんて使わなくていですよ?」
「……あっそ。
ま、確かに悪魔が人間相手に敬語なんて馬鹿らしいったらありゃしないか」
うん、変に大物ぶられるより大部喋りが流暢になった気がする。
「アンタが死ぬまで、短い間だろうけど……
精々長生できるように、みっともなく足掻いて私を楽しませてね?」
最後に振り向き不吉な挨拶を残した後、彼女は音も立てずに部屋を出ていった。
こうして時間にして10分程度で俺の人生は谷底から脱出を
いや、寧ろ谷底の更に下へと堕ち始めたのかもしれない………。
最初のコメントを投稿しよう!