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「改めて謙虚になる必要はありません。
妄想等ではなく、間違いなく貴方の母上は貴方の為に御告げをくださったんです」
「む……。なんでセンパイが断言するんだよ?」
「ディスクプレイヤーを手に入れた時の貴方の目を見れば嘘か誠かなんて分かります。
自信を持って御告げを信じてください!」
俺以上に自信を持って信じてる相手を目の当たりにすると……
ああ、確信が持てる一方でどうも背中がむず痒いったらありゃしない。
「……お、おう。話を戻すぞ?
後は、終末の笛を止める為にディスクプレイヤーを使用する必要があるが、それも一つ笛を鳴らす行為になる……らしい」
「……終末の笛ですか。
主が絡んだ事態……とでも言うのでしょうか?」
そうだ、確かに聖書にあるラッパ吹きの話は要約すれば神と天使による人類の選定みたいな話だった筈だ。
「神が人界に干渉してるって事か?」
「……主は私達天使の前にすら姿を現しません。
ですので真偽を問うことは難しいかと……」
まあ、それはそうか。悪魔、天使が実在するだけでも驚きなのだ。
神ともなれば実在の証明すらさせないままに存在しているのだろう。
「それに、聖書の笛の記載みたいな事にはなってないしな。
完全に同じとも限らないはだろうし、必要以上にアテにしちゃならないんだろ」
となれば、俺に出来ること……俺がすべきことは
「後輩……いえ、天理さん」
結論をだす前にセンパイが立ち上がって俺を真っ直ぐに見据える。
その瞳はあらゆる罪を見抜き白日のもとに晒す、まるで水晶のように澄んでいた。
──俺ノ■ハ
「ここへ来る前、天使長より使命を一つ授かりました。
“人界に起きた異変の捜査及びその元凶を発見次第破壊せよ”と
恥ずかしながら、今の私は不調で傷も完治していませんので……」
──あ、あ。そうだよな、ああ。
奇しくもそれは、俺の頼みたかった事にも合致している。なら話は早い
「俺も母さんに頼まれた使命がある。
その為には天使の力が必要だ。センパ…いや
──天使 エルゥ、俺に力を貸してくれ」
依頼するつもりが先に依頼されたセンパイはキョトンとして俺を見たが、それは一瞬。
微笑みを浮かべた彼女は俺に手を差し出す。
「辻 天理さん。
私の力は貴方の行くべき道を照らす光になることを此処に誓います。
……頑張りましょう、後輩!」
「ああ よろしくな、センパイ」
握手をかわす。不思議と心が暖かくなる……さすが天使と言うべきか、握手一つにも祝福の効果があるのだろうか……?
「それで、これからどうするか考え……」
「これ以上は明日にしましょう。疲れきってて休息が必要みたいですし」
「別に俺は大して疲れちゃいな……」
「ふふ、違いますよ。私が休みたいんです」
──あ
心臓が止まるかと思った。
まるであの人のような言葉を発しながら俺から離れるセンパイ
「それとも……
私に今すぐ訊かなきゃいけないことでもありましたか?」
「そんな事は……」
……訊かないの?
「──とりあえず無いな。空き部屋があるから案内する」
傷も完治してないって言ってたセンパイをずっと起こしてるのは申し訳ないにも程がある。
こうして改めて俺とセンパイは同じ目的の為に手を取って最初の夜が更けていった……。
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