7人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
……沈黙に耐えかねたのか、向こう側から対話は再開する。
「か、カルラさんと口聞いちゃダメって、お父さんに言われたから……」
「そうですか。では、黙ります」
「ええ!? こ、困る! 寂しいし、その……」
何故か驚いていたが、宣言通り私は口を引き結んで目を閉じる。
――のだが、壁の向こうから、あ゛ー、だとか、う゛ー、だとか微かに聞こえてくる。言いたいことがあれば言えばいいものを。
「で、でもでも、感謝はちゃんと伝えなさい、って言われたから。例外というか、なんというか」
感謝?
私は目を開き、再び格子窓を見上げる。
すぅ、と大きく息を吸う音。そして、
「その。ありがとう、ございました! “羊喰い”、やっつけてくれて! それにいつも、村を護ってくれて! はい、例外終わり!」
言い切った後、はぐ、なんて力いっぱい口を閉じたような音が微かに聞こえた。それっきり静かになる。
しかし……ああ、そうか。
感謝なんて、されたことなかったっけ。
だから、なんだか、こそばゆくて、
「……ふふ」
小さく、声に出して笑ってしまった。
「あ! なに笑ってるのよう!」
「喋っていいんですか?」
「こ、これも例外だし! 特別だし!」
その後、例外に例外が重なり、いつの間にやらマリーナとは普通に言葉を交わすようになった。
最初のコメントを投稿しよう!