悪魔はドロップキックがお好き

10/10
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「で、行方不明ってどういう事?」 彼女に道案内されながら、僕は煙草を取り出す。 が、物凄い形相で睨まれ、渋々取り出した煙草を再びポケットに。 「友達のサンちゃんね、夜のお散歩が趣味なの」 相槌をうちながらも、「サンちゃん」って性別はどちらなのかと、疑問が浮かぶ。 「それで昨日の夜、お散歩に行ったまま行方が分からなくなって……GPSが生きてたみたいで居場所は分かったんだけど……」 また随分と定番な話だけど、どうにも不自然な気がする。僕は腑に落ちない点を列挙する。 「ねぇ、どうして警察に通報しないの? サンちゃんの親御さんはどうしてるの? そもそもどうして僕が必要なわけ? その理由を説明してくれないかなぁ」 トコトコと歩いていた彼女がピタリと立ち止まったので、歩いていた僕は数拍遅れて背後で佇む彼女を見た。 「私が悪いの……おじさんとおばさんが留守だって分かってたのに。私がサンちゃんを連れ出したから、だからこんな事に……っ……」 この世で一番美しい宝石は、何て名前だったかな。 彼女の大きな瞳から零れたのは、街灯に照らされて光輝く幻想的な宝石そのものだった。 こぼれ落ちるのが勿体無い気がして、だからそれを掬おうと手を伸ばしていて─── 「やだ、殺し屋さん、エッチ」 目の前の彼女が不敵に微笑んだ。 「へ? え……あ……あれ? うわっ!」 手の平がいつの間にか彼女の頬を包んでいて、僕は大慌てでその手を引っ込めた。 何なんだ、これは。 一体僕はどうしてしまったのだ。 そして何のアレルギー反応なんだ。 動悸、息切れ、疲労感。 熱も出てきた気がするぞ。 なのに、妙に浮かれてやしないか? ───呪いをかけられるよ あの占い師の声が脳内でこだました。 尖った尻尾は生えていないけれど、妖艶な仕草に、不敵な微笑、いちいち眩しい存在感。 これは間違いない。 「悪魔だ……」 僕はどうやら、悪魔に取り憑かれたらしい。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!