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「で、行方不明ってどういう事?」
彼女に道案内されながら、僕は煙草を取り出す。
が、物凄い形相で睨まれ、渋々取り出した煙草を再びポケットに。
「友達のサンちゃんね、夜のお散歩が趣味なの」
相槌をうちながらも、「サンちゃん」って性別はどちらなのかと、疑問が浮かぶ。
「それで昨日の夜、お散歩に行ったまま行方が分からなくなって……GPSが生きてたみたいで居場所は分かったんだけど……」
また随分と定番な話だけど、どうにも不自然な気がする。僕は腑に落ちない点を列挙する。
「ねぇ、どうして警察に通報しないの? サンちゃんの親御さんはどうしてるの? そもそもどうして僕が必要なわけ? その理由を説明してくれないかなぁ」
トコトコと歩いていた彼女がピタリと立ち止まったので、歩いていた僕は数拍遅れて背後で佇む彼女を見た。
「私が悪いの……おじさんとおばさんが留守だって分かってたのに。私がサンちゃんを連れ出したから、だからこんな事に……っ……」
この世で一番美しい宝石は、何て名前だったかな。
彼女の大きな瞳から零れたのは、街灯に照らされて光輝く幻想的な宝石そのものだった。
こぼれ落ちるのが勿体無い気がして、だからそれを掬おうと手を伸ばしていて───
「やだ、殺し屋さん、エッチ」
目の前の彼女が不敵に微笑んだ。
「へ? え……あ……あれ? うわっ!」
手の平がいつの間にか彼女の頬を包んでいて、僕は大慌てでその手を引っ込めた。
何なんだ、これは。
一体僕はどうしてしまったのだ。
そして何のアレルギー反応なんだ。
動悸、息切れ、疲労感。
熱も出てきた気がするぞ。
なのに、妙に浮かれてやしないか?
───呪いをかけられるよ
あの占い師の声が脳内でこだました。
尖った尻尾は生えていないけれど、妖艶な仕草に、不敵な微笑、いちいち眩しい存在感。
これは間違いない。
「悪魔だ……」
僕はどうやら、悪魔に取り憑かれたらしい。
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