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やはり先程の涙は演技だったのか?
結局、上手く煙に巻かれたまま、悪魔……いや、彼女は意気揚々とスキップをし、雑居ビルの前でクルッと身を翻した。
「じゃーん! サンちゃんはこちらでーす!」
グルメレポートでも始めそうな勢いに、僕は苦笑しながら雑居ビルを見上げ、そして───固まった。
「嘘だろ……」
そこは紛れもなく、来月別の班が襲撃予定の麻薬密売組織のアジトだった。
「ここで合ってるけど?」
彼女はポケットからスマホを取り出す。
画面を操作して、僕の目線に掲げた。
赤い点と青い点が、同じ箇所で点滅している。どちらかが僕たちで、もう一方がサンちゃんってことだろう。
「……やめとこうか」
「なんでよ!」
「流石にマズい。ここは君が来る場所じゃないよ、残念だけどサンちゃんって子は……」
おそらく薬物使用者。彼女とどんな繋がりかは知らないが、何らかの理由で身柄を拘束されていると考えるのが妥当だ。
僕の班ならまだしも、他班のターゲットなんて全く情報が無い。人数も所持する武器だって分からないのにどうやって───
「大丈夫、ここの人達今日はいないから」
「は? どう言うこと?」
「夕方ここを張ってたら、怪しい男達が『今夜は取引だから感知センサー起動させとけ』って。それって留守だってことじゃない?」
「ち、ちょっと待って、張ってたって何? まさか一人で忍び込むつもりだったとかじゃないだろうね?」
「ダメ?」
あぁ、悪魔が。僕の心臓を握り潰す。
キラッキラの笑顔を撒き散らして翻弄するから───
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