悪魔はドロップキックがお好き

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「ぶわっくしょんっ!!」 仕事がひと段落し、休憩も兼ねて屋上で煙草を吸いながら、先日出会った占い師に手紙を書いているところだった。粗方書き終えたところだったのに、僕の盛大なクシャミのおかげで、便箋は噴き出た唾と鼻水で台無しだ。 「うわぁ、風邪っすか? トザワさん」 屋上の扉からひょっこりと金髪頭が顔を出した。 「うん、ちょっと微熱があってね。ところで、もう仕事終わったんだ?」 「はい、今日は楽勝っすよ」 くしゃりとした笑顔を見せるオオトリ君に向かって軽く手を挙げると、重い腰を上げた。 よたよた歩く僕を心配そうに眺め、労うように深々と頭を下げる。心優しき彼の、温良恭倹な態度は出会った頃からちっとも変わらない。 実直で仕事熱心で、どの業者よりも仕事が早い。だからここ半年程、僕の仕事の後処理はいつも彼に担当して貰っているのだ。 「大丈夫っすか? 顔色悪いですよ?」 「そうなんだよ、ちょっと聴いてよ……」 「どうしたんすか?」 「僕さ、どうも呪われてるみたいなんだよねぇ」 彼の両肩をガシッと掴み、僕は弱々しいため息をひゅるりと吐いてみせた。 「えぇ!? マジっすか! トザワさんでも呪われたりするんすか!?」 「そうなんだよ、呪われたりしちゃったんだよ。誰よりも平和主義で、寛容的で、冷静沈着だと自負してたんだけどねぇ……どうやら違ったみたいだ」 自嘲気味に笑う僕の肩をオオトリ君が勢い任せに掴んだせいで、微熱でヨロヨロな僕の体は木の枝のように頼りなく揺れた。 「トザワさん! 俺でよければ相談して下さい! こう見えても結構頼られる方なんすよ!」 予想通り、彼は拳を握りしめ、熱意に溢れる瞳を僕に向けた。思わず「グフッ」と漏れ出た笑い声を咳払いでごまかしつつ、僕は屋上の扉脇の壁にもたれた。 ごめん、オオトリ君。僕は割と頭はキレる方なんだ。だからこの呪いの謎は、おおよそ解き明かしてしまった。 だけど単に次の仕事までの空き時間を、こんな下らない戯言に付き合ってくれるお人好しは、君くらいだった────という事に……どうかしておいてくれないだろうか。 「実はね、つい先日のことなんだけど───」
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