27人が本棚に入れています
本棚に追加
─────
南町の駅から歩いて10分。
この日の業務を終えた僕は、「案件の報告がてら食事でもしよう」と中学からの同級生であるナラ君からの誘いを受けて、これまた僕たちの同級生であるヨネダ君がオーナーを務める、イタリアンレストラン『rose』に向かっていた。
レストランへ続く街路樹の並ぶ細い裏通りは、全くと言っていいほど人通りが無い。電車を降りた僕は、この細い裏通りを歩きながら、先ほど使用したSIGSAUER P320の弾倉を抜き出し、ズボンのポケットへとしまった。
銃本体はいつも通りジャケットの内ポケットに。こうしておけば、たとえ銃を奪われても脅威になることは少ない。
「ちょっと!」
道幅の狭い裏通りから、公園を抜ける階段を下りる途中のこと。
「あんただよ!!」
ジャクジャクと奇妙な音と同時に嗄れた老婆の声。
階段下、ベンチに腰をかけている背骨の曲がった小さな背中。テーブルの代用だろうか、みかん箱が足元に置かれていて、紫色の風呂敷がかけられていた。
四月のまだ肌寒い夕刻。陽は沈み、辺りは藍色の空が手を伸ばし始めていた。
僕の首筋から鳥肌が全身へと駆け巡る。
老婆の手にはガラスの器。こんもりと盛り上がった抹茶色に小豆達。
「宇治金時……」
「にゃあ」
呟いた僕の声は、目の前を横切った白猫の鳴き声に呆気なくかき消された。
黒猫が横切ると不吉だなんて聴いた事があるけれど、白猫はどうなんだろうか?
「あんた、この後悪魔に出逢うよ」
どうやら白猫も────同じらしい。
最初のコメントを投稿しよう!