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「ああ、うるさいな」
「どうした?聞こえるのか?」
「聞こえますね、“泣き声”が」
「仕事の時間だな」
そう言うと先輩は、お気に入りの自前のリボルバーを手にした。何て名前かは知らない。
私は支給品のニューナンブM60、銃なんて撃てれば何でもいい。
「“外回り”行ってきます」
「ああ」
先輩の言葉に生返事のような「ああ」を新室長は返した。それほどこの仕事には興味がないんだろうなと思うし、今から私たちが何をするのかも考えてはいないだろう。
拳銃を携帯していることだって、どこまで認識しているのか怪しく感じる。
先輩は前室長では叶わなかった自前のリボルバーを平然と装備できるので、新室長のそんな態度を歓迎しているだろう。
外に出るとすっかり日は沈んでいて、きっと仕事を終えて戻る頃には、形ばかりの残業を終えた新室長は帰宅されているだろう。
「で、どこから聞こえるんだ?」
「うーん、あっちですかね」
昇りかけの月が明るい空を指差して私は言った。
「相変わらずざっくりだな」
「悪かったですね」
これでも私は、前室長よりもより“泣き声”が聞こえる。
この仕事において、“泣き声”が聞こえるというのは非常に重要なことだ。“泣き声”が聞こえることによって、どこに行けばいいのかかなり絞られるからだ。
当てずっぽうで外に出たところで、何の成果も得られぬまま終わるのがおちだ。
確かに不自然な戸籍や記録から、可能性を見出だすことは可能だろう。でもそれは、現実的ではない。至難の技だ。
“資質”のある前室長が現れるまで、ここは窓際部署で扱いも給料も酷かったと聞いている。
むしろよくそんな状態でもここが残されたなと、話を聞いていて思わざるを得なかった。
それでもなお、政府がここを残し続けたのは、“落とし子”の強大で未知な力によるものだろう。
確かな証拠や証明はないのに、政府は“落とし子”の存在を頑なに隠そうとしている。そもそもどれだけの人が信じるかも怪しい、オカルト染みた話なのに、政府は何をそんなに必死なのだろうか。
そんな疑問に前室長は、いつまでもオカルト染みた話であり続けるために我々がいるのだよと、いつも笑いながら話していた。
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