星を回収せよ

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「こんばんは、夜分恐れ入ります」  オートロックも何もない、誰でも簡単に入れるアパートの一室から“泣き声”は聞こえていた。  チャイムを何度か鳴らして呼びかけてみたものの、反応はなかった。 「電気はついてるのにな、何の返事もないな」 「居留守なのか、本当に留守なのか。まあ、出ない気持ちもわかりますけどね」  夜に急な訪問者とか、私だって対応したくはない。このご時世だ、不審に思われていても仕方がないだろう。  まあ、出てくれたら出てくれたで、役所の者を名乗り、あれやこれやと怪しいことを言い始めるのだから結局不審であることには変わりがない。 ーカシャンー 「何か音がしたな」 「そうですね」 ー…………ー ー……ー  あれ、おかしいな。 「先輩……」 「なんだ?」 「“泣き声”が遠ざかっていきます」  先輩は私の言葉に表情を一変させ、ドアノブに手をかけて回した。  すると玄関の扉は簡単に開いてしまって、悪い予感ばかりが膨らんでいった。  玄関を開けると廊下があって、磨りガラスがはめられた扉がみえた。その扉はやや開いていて、倒れている人影が見えた。  こちらに向けられていたのは足だったから、ここからでは顔はわからなかったけれど、ぴくりとも動かない足に一層悪い予感が膨らんだ。 「声はどうなってる?」 「“泣き声”はどんどん遠ざかっていきます、もうここではありません」 「わかった」  先輩はスマートフォンを取り出して、“不測の事態”が起きていることを然るべきところに伝えた。  伝え終えると部屋の中をあらためることなく、“泣き声”を追いかけるように促した。  この部屋で起きているであろうことは、すでに私たちの管轄を離れている。  お役所仕事ではあったけれど、それが当然にと倒れている人の安否も確認することはなかった。 「久々の過激派だな」 「面倒ですね、全く」  ただでさえ世間に認知されず、理解もされていない仕事で、やりにくいことこの上ないのに、奴等が絡んでるとなると私としては非常に面倒に感じた。  かたや先輩はと言えば、自前のリボルバーを撫でて嬉しそうにしていた。   私は何度でも思うのだが、よくこんな人がお役所勤めになれたものだなと。  もちろんただのお役所勤めではないし、この先輩の役割はどちらかと言えば“不測の事態”のような荒事を想定してのことなので、適材適所なのだろう。
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