星を回収せよ

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 報告書類をはじめとする後始末関係は、先輩が全てやってくれる。だから私の今日の仕事はこれで終わりだ。  それでも私が一度戻るのは、左腕についた血を洗い流して、汚れた服を専属のクリーニング屋に出すためだ。  さすがにこんな姿では街中を歩くことはできない。  血を落としてより一層見えやすくなった左腕の痣を眺める。  前室長にも、同じような痣があった。 「何なんだろうな、本当に」  私はただの公務員で、お役所勤めで、与えられた職務を全うするだけだ。  何度でもそう言い聞かせる。  私たちの仕事は、“落とし子”の回収と管理だと聞いている。この仕事にどんな意味や意義があるのかは正直わからない。  ただ偶然に出会えた前室長に促されるままに、この仕事に就いてしまっただけなのだ。 「まだ残ってたのか」 「爪の間に入った血って、落ちにくいんですよね」 「マニキュアも何もしないだろ、切ってしまえばいいのに」  確かに。先輩の言葉は一理あった。 「今日はかなりの残業だったからな、俺の奢りで飯でもいくか?」 「先輩がそんなこと言うなんて珍しい。槍でも降りそうなんでやめておきます」 「そうか、じゃあな。俺は先に帰る」  先輩はそう言うと、あっさりと帰ってしまった。  私は一先ず、地下に設けられたこの射撃訓練所に向かった。  コンクリート色の壁から感じる視覚的な冷たさや、執拗なまでに施された防音設備、そして何より自らが撃った銃の音が、色々なものを書き消してくれるように感じるから。  私にとってこの世界は、雑音が多すぎる。 ー……ー ー……ー  それは“泣き声”として認識するには遠すぎる声。  私はこの声にずっと悩まされている。そして悩んでいるのは私だけだと思っていた。  同じ悩みを共有できた前室長はもういない。  やっぱり、私だけだ。 「やっぱりここか」 「あれ、先輩……帰ったんじゃ……」 「俺の奢りだ、飯に行くぞ」  今度は私に選択肢はなかった。  仕方がないので、一緒にごはんに行ってあげることにした。
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